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ArcSwingコンセプトの継承と熟成 「FlexScan S170」開発者インタビュー

初代ArcSwing搭載「FlexScan L567」発売後間もない2003年夏より、二代目の開発はスタートした。コンセプトを守り、そしてユーザーのニーズを受け止め、また液晶パネル市場も横目に見つつ、「FlexScan S170」は誕生した。開発の経緯とEIZOとしての考え方を開発者に聞いた。

初代のコンセプトを継承

――初代ArcSwingのL567から約1年になりますが、今回のS170に採用されたArcSwing 2はいつごろから開発が始まったのでしょうか。

中嶋 プロトとしては昨年(2003年)の夏ごろからですね。

――初代があって二代目ですから、どういうものを創ろうと取り組んだのですか。

中嶋 まずArcSwingのコンセプトは、液晶の薄さと軽さを活かした新しいディスプレイ付加価値の提案です。具体的には、高さ調節とチルトで画面を手前に引き寄せられます。これは「紙」を見たり読んだりすることと同様の形態を意図しています。人間的にやっぱり「紙」での状態が一番頭に入りやすくて理解しやすいだろうと。ArcSwing 2も、このコンセプトを継承してバージョンアップを図りました。

 例えば本を読むとき、本の位置は胸の前や膝の上で「見下ろす」のが自然ですよね。また、こういう業界にいながら、私はブラインドタッチが苦手でして。画面とキーボードを交互に見る回数がどうしても増えるのですが、S170の画面をノートパソコン感覚で使うと、目の動きが少なくすむため疲れが全然違います。

中嶋 初代ArcSwingは3つの可動部で弓型の動きを実現していますが、仕組みが大掛かりでした。もっとコンパクトに改善することで、ユーザーさんに対してアピールしたいと考えました。重量的には3割ほど軽くなっています。

 初代ArcSwingからArcSwing 2へのポイントは3点です。1つは「省スペース化」で、もう1つは「動きの視覚化」です。初代ArcSwingはスタンドの構造が複雑で、どういう動きをするのか視覚的に分かりにくかった。せっかくいい動きをするのに、店頭でも体験されにくかったのです。ArcSwing 2は背面をそのまま弓型にして、動きをイメージできるようにしました。もう1つは「スイーベル」の追加ですね。これは社内アンケートでもユーザーさんの生の声でも要望がたくさんありました。

機能ユニット開発部・造形設計課・主任エンジニアの中嶋郁夫氏

ハイエンドコンセプトを踏襲しつつコストダウン

――ピボット機能が省かれていますが。

中嶋 ピボット機能に関しては、使っているユーザーさんがことのほか少なかった。それとは別に、昇降のスライダを弓型にしてさらにコンパクトにとなると、ピボットの搭載はかなり難しいです。せっかく小さく設計できたのに、ピボットを加えて大きく、重くしてよいものかと。そこでピボットよりも、要望の多かった省スペース性とコンパクトさを優先しました。

――開発中のトラブルや苦労した点などはありましたか。

中嶋 弓型に稼働する部分の造形と動く範囲、力加減には苦労しました。スタンド部分の大きさとの兼ね合いもありますから。

――EIZOブランドの17インチモデルが全部で4機種になったわけですが、それぞれの特徴やおすすめポイントを教えてください。

 PrimEdgeのL550は、とにかくシンプルに画像調整機能なども絞り込んでいます。5年保証で壊れにくい信頼性を最大限にアピールしたいモデルです。

 MultiEdgeのL557とL567は、画質調整などを自分でしたい人に向けたモデルです。最大の違いは液晶パネルとスタンドですね。

 SlimEdgeのS170は、機能的にはL567に近い。L567との一番の違いは液晶パネルですが、機構的な違いはスタンドが進化したことと省スペース性です。これまでのSlimEdgeのコンセプトは、CADユーザーや金融ユーザーといったプロ向け、ハイエンド的な位置付けです。今回のS170は、SlimEdgeのコンセプトを踏襲しながらコストダウンを図りました。

――S170はどのようなユーザーに使ってほしいですか。

 プロフェッショナルな業務用途だけでなく、もっと一般的な法人、事務用途や個人など、とにかく幅広いユーザーに使ってほしいですね。

企画部・商品企画課・第1係の南貴之氏

挑戦はさらに続く

――話は変わりますが、流行の光沢液晶について、メーカーとしてどのようにお考えですか。

 もちろん研究と製品化の検討はしています。ただ、光沢液晶はニーズがコンシューマーに偏ってしまう。事務用には持っていくのは難しいですね。あの光沢と反射は、やはり目が疲れます。コンシューマー向けに限定した製品でないと、採用は難しいです。代わりといってはなんですが、S170ではオプション保護パネルのFP-504を用意しました。ダブルフェース仕上げをしており、片面がノングレアでもう片面が光沢面となっていますので、お好みで使用いただければと思います。

――ベゼル幅はどこまで狭くなるんでしょう。ボタン類も小さくなりましたね。

 ベゼル幅はかなり限界に近いです。ボタンは一応、ボブ・サップでも押せるように設計してます(笑)。実際に使ってもらったわけではないですが。

――初代ArcSwing(L567)でお話を伺ったときに、「ArcSwingはSuper-IPSパネルだから実現できた」という印象的なコメントがありました。今回のS170はPVAパネルですが……。

 あの頃(1年前)と比べるとPVAパネルもかなり進歩して、状況が変わりました。視野角も左右178度と広いので、ArcSwing 2の稼働範囲とスイーベル範囲ではまったく問題ありません。

 17インチに限った場合、他社さんの製品ではTN型パネルの採用が多いのですが、視野角とコントラスト比はPVAパネルのほうが圧倒的に有利です。カタログにも書いてあるとおり、S170のコントラスト比は1000:1と非常に高く、黒が引き締まってメリハリと立体感のある画面が特徴です。ArcSwing 2とPVAパネルの採用で、S170は差別点というか優位点を出せたと思います。

――ArcSwing 3を創るとしたら、どういったものにしたいですか。

中嶋 ArcSwingのコンセプトは、やはり「紙」のイメージです。書類や本を机の上に置いて読むことも多いわけで、画面の可動範囲を広げて、より水平に近づけるようなトライはしていきたいと思っています。スタンド部の構造と省スペース性、重量のバランスが難しいところですね。


ナナオ本社工場。静電気を嫌う液晶パネルの取り付けは、特別な静電気対策を施したエリアで行う。写真はセル方式で組み立てている様子

[リアクション,ITmedia]

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