「ベンチマーク」「CPU」「GPU」「エコシステム」で読み解くSnapdragonの今:Qualcomm Mobile Benchmarking Workshop(3/3 ページ)
モバイル向けプロセッサーメーカーとしては老舗のQualcomm。スマートフォンの普及に伴って同社の存在感がさらに増している。Snapdragonの優位性、スマホの性能を測るベンチマークテストの重要性、そしてSnapdragonを取り巻くエコシステムとは――。
SDKを公開してSnapdragonのエコシステム拡大にも尽力
モバイル向けプロセッサーの開発に注力しているQualcommだが、Snapdragonを取り巻く“エコシステム”の拡大にも努め、Snapdragon上で動作するさまざまなSDKを、「QDevNet」(外部リンク)で開発者向けに公開している。これはスマートフォンやタブレットで単に高い性能を実現するだけでなく、コンテンツを拡大させることでユーザー体験も高めたいという考えに基づく。
同社が考えるユーザー体験とは、どんなものがあるのだろうか。その1つが、近距離通信を可能にするP2P(Peer to Peer)を用いた「AllJoyn」だ。QualcommのAllJoyn SDKを導入したアプリでは、同一のWi-Fiアクセスポイントに接続したユーザーが、対戦型ゲームを一緒にプレイしたり、データを交換したりできる。ペアリングなどの設定は必要はなく、同じアクセスポイントに接続したユーザーが自動で参加者として追加される。デモでは、AllJoynで複数人が参加したレースゲームや、カードのトレードアプリ、加工したポテトの絵を交換する「Spudball」、対戦型の格闘ゲームなどが紹介された。AllJoynに対応するアプリはすでにGoogle Playで8タイトルが配信されている。Bluetoothによる通信も可能で、Wi-FiかBluetoothかはアプリ開発者が選択できる。OSはAndroidに限定せずPCやテレビでも利用できるほか、チップについても他社製品をサポートし、オープンなプラットフォームとして展開する。
ARコンテンツの開発を可能にする「Vuforia」では、実在する物に端末をかざしてゲームを楽しんだり、ユーザーに役立つ情報を提示したりできる。Qualcommは2010年にも同社のSDKを使ったARゲームを発表しており、Vufoniaの取り組みはその延長線上にあるものだ。また、QualcommはAR技術を利用した広告展開も視野に入れている。例えば購入した商品に端末をかざすと、関連商品の広告が表示されるというものだ。同社のSDKを用いたARコンテンツは現時点では商用化されていないが、今後の展開が期待される。
カメラ機能を強化するSDK「FastCV」も提供している。このSDKを用いたアプリの1つ「iOnRoad」では、スマートフォンのカメラやGPS、センサーによって自車の前方の車両を探知して車間距離を表示し、危険が迫るとドライバーに警告してくれる。顔認識を活用し、集合写真で誰も瞬きをしていないタイミングでシャッターを切る、笑顔を認識してシャッターを切るといったこともできる。FastCVはARMベースのプロセッサーで有効だが、特にSnapdragon(第2世代以降)でうまく動作するようチューニングされているという。「Fluence PRO」では、ビデオチャット時にノイズ除去やエコーキャンセルなどを可能にするほか、5.1Chのステレオ音質での録音もできる。
電話、メール、ブラウジングなどスマートフォンの一般的な用途において、クアッドコアが生きるシーンは限られるだろう。クアッドコアの性能をフルに生かすコンテンツとして有力なのが、高度なグラフィック処理を必要とするゲームだ。Qualcommは第3世代以降のSnapdragonに最適化したゲームを紹介する「Game Command」というAndroid向けゲームアプリを提供している。Game Commandでは100種類以上のゲームが紹介されているが、現在展開しているのは北米のみ。他国での展開も期待される。グラフィックなどについては「ゲーム会社と直接やり取りしている」(Qualcomm関係者)といい、開発にも積極的に携わっている。会場ではAPQ8064に最適化したバトルゲームのデモを実施し、家庭用ゲーム機に匹敵するクオリティだとアピールしていた。ちなみにNVIDIAも同社のTegra 2/3に最適化したゲームを紹介する「Tegra Zone」を展開しており、チップメーカーとゲームメーカーとの協力体制が浸透しそうだ。
Snapdragonをテレビやセットトップボックスに搭載してスマートTV(Smart TV)を実現する取り組みも進めている(外部リンク参照)。イベント会場ではセットトップボックスにAndroidを搭載したサービスのデモを行っていた。スマートTVではスムーズなWebブラウジング、HDサイズのテレビ番組や動画の視聴、家庭用ゲーム機並みのゲームを楽しめるとしている。チップはSnapdragon S4の「Prime」に含まれるメディアプロセッサー「MPQ8064」が搭載される予定。デモで使われていたものはAPQ8064だが、こちらはテレビの画像処理用には別のチップが必要になる。MPQ8064ではテレビ用のチップが担う映像処理もこなす。
スマートTV用のアプリは各デベロッパーが開発する流れで、QualcommがSDKを提供する予定は今のところない。デモではイメージ用に作られたアプリが紹介されていた。このアプリのユニークな点が、テレビに備えたカメラでユーザーを認識すると、あらかじめ登録した顔写真とプロフィール情報にもとづいてコンテンツが表示されること。例えば家族で使う場合、父親や母親などのメンバーごとに異なるメニューが表示されるわけだ。過去にダウンロードしたアプリや視聴した番組などに応じてコンテンツを勧める機能の実装も期待される。2画面表示に対応しており、左画面で動画を再生しながら右画面でブラウザを開くといったことが可能になる。画面の切り替えやスクロールなどはスマートフォンのアプリから操作できる。
Snapdragon S4は世界で供給不足になるほど多くの端末メーカーから引き合いが増えている。その次期チップである「APQ8064」では、CPUとGPUともに同社の最新技術が凝縮されており、リファレンスモデルで試したベンチマークテストでも高いスコアを記録した(参考記事)。このテスト結果は絶対的なものではないが、今回紹介された「Basemark ES 2.0 Taiji Free」「Vellamo」など定評のあるアプリを使うことで、より確度の高いテストができるはずだ。ワークショップの取材を経て、2012年中とされているAPQ8064搭載機の登場がいっそう楽しみに感じられた。また、チップの開発に留まらず、Snapdragonに最適化したアプリが増えることで、ユーザー体験の幅も広がる。チップとアプリ――両面からQualcommの動向を注視したい。
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