IEEE802.11nドラフト2.0のゆくえ――今買うべきアクセスポイント/ルータを考える元麻布春男のWatchTower(1/2 ページ)

» 2008年10月31日 14時00分 公開
[元麻布春男,ITmedia]

ドラフトはあくまでドラフトなのか?

アセロス・コミュニケーションズ 代表取締役社長 大澤智喜氏

 最近、ノートPCのスペックで目につくようになった言葉がある。それは「802.11nドラフト2.0対応」あるいは「802.11a/b/g/nドラフト2.0準拠」といった文字だ。無線LANのアクセスポイントやルータにも、この言葉が目につく。わざわざ2.0対応や準拠とうたうのは、それまでリリースされていた802.11nのドラフト対応あるいは準拠製品が1.0対応/準拠であったことを意味する。つまり無線LAN製品として、世代が新しいことをアピールしているわけだ。

 ところがノートPCのベンダーに、「この802.11nドラフト2.0対応ノートPCで、接続が保証されるアクセスポイントやルータはどれですか」と聞くと、驚くべき答えが返ってくることがある。それは「あくまでもドラフトなので接続性の保証はできない」というものだ。もちろん、これは「公式見解」であり、接続できない無線LAN製品をベンダーが販売しているわけではない。内部では市販のルータやアクセスポイントとの接続テストを行っているベンダーも多い。ただ、準拠するのがドラフトである以上、接続性の保証はできない、たとえドラフト2.0対応をうたう製品同士であっても、というのがオフィシャルな答えとなるようだ。

 しかし、そうはいわれても、ユーザーとしては困ってしまう。ドラフト2.0対応のノートPCを購入したユーザーは、どんなアクセスポイント/ルータを買えばいいのだろう。逆に、ドラフト1.0に対応したノートPCを持っているユーザーが今、アクセスポイント/ルータを買う場合、準拠したドラフトに合わせてドラフト1.0対応の製品を探すべきなのか、それとも新しいドラフト2.0対応の製品を買うべきなのだろうか。そもそもドラフト2.0というが、いったいいくつまでドラフトは進むのか、正式規格が決定するのはいつごろなのか。こういった点を、無線LAN用半導体のトップベンダーの1つであるAtheros Communications日本法人の代表取締役社長である大澤智喜氏にうかがった。

IEEE802.11nの最終規格は2010年に決定!?

 まず一番気になるのは、IEEE802.11n規格の動向だ。いったいドラフトはいくつまでいくのか、またドラフト3.0に準拠した製品とかが出てくるのだろうか。

 その答えだが、まずドラフト3.0に準拠した製品は出てこない。業界の意向として、ドラフト2.0準拠の次は最終規格、という流れであるそうだ。何より、実はとっくにドラフト3.0はリリースされている。それどころか、本稿執筆時点で最新のドラフトは7.0まで進んでおり、今さら3.0準拠の製品はあり得ない。それならドラフト8.0準拠の製品はないのかというと、上に記したように次は最終規格で、というのが業界の総意であるらしい。

 本来、802.11の標準化タスクグループでは、ドラフトは頻繁に更新される。それが802.11nに関しては、ドラフト1.0が採択された2006年1月から、ドラフト2.0が採択されるまで1年の長きを要した。その後は1年半あまりで5回ほどドラフトは更新されており、通常に近いペースになっているという。

 このように標準化が難航している理由の1つは、無線LANのアプリケーションが広がっていることだ。当初は無線LANの用途イコールPCだったが、現在はポータブルゲーム機、スマートフォンなどPC以外の用途にも広く使われている。もはや無線LANの動向を、PC業界だけでは決められなくなったのである。利害の異なるさまざまな業界の意向が反映されるようになった結果、標準化に時間がかかるようになったわけだ。

 では最終規格はいつになったら登場するのだろう。IEEEにおける現時点での公式スケジュールでは、2009年9月とされている。この種の規格化スケジュールが遅れがちなことを割り引いても、2010年早々には最終規格が決定するのではないか、というのが現時点での観測だ。

高速化オプションのガイドラインが策定

Wi-Fi Allianceが認証作業を行った製品に使用されるWi-Fi CERTIFIEDロゴ

 上でも述べたように、ドラフト1.0からドラフト2.0までは約1年の歳月を要した。この結果、ドラフト2.0は、それなりに完成度の高いものになったという。おそらく1年間の論議の結果、ドラフト1.0とは異なる部分もある程度まとまったのだろう。すでにドラフト1.0で走り出してしまった製品を、将来登場するであろう最終規格に近い形に軌道修正するためにも、あたらしいドラフト2.0に準拠させたほうがよい、という判断が働いたものと思われる。製品をドラフト2.0ベースにするために、業界団体のWi-Fi Allianceで802.11n準拠製品の認証作業を行うことになり、その作業が2007年の夏からスタートした。そしてこの認証作業をクリアし、802.11nドラフト準拠を示すWi-Fi Allianceのロゴをつけた製品が2007年の暮れあたりから店頭に並び始めた。

 このWi-Fi Allianceの認証プログラムにより、IEEEの規格では規格化されているものの、必須とされていない高速化のオプションについて、製品にインプリメントする際のガイドラインが策定された。802.11nには無線LANのデータスループットを向上させる技術として、さまざまな技術が採用されているが、Wi-Fi Allianceの認証プログラムでは、可変長フレーム、ブロック単位でのACK、MIMO空間多重といったフィーチャーが必須となっている。可変長フレームやブロック単位でのACKは、プロトコルのオーバーヘッドを減らし、実効帯域を向上させる効果がある。

 MIMO空間多重は、複数の情報信号(ストリーム)を同時に送信することで多重化し、伝送速度を引き上げる技術。いろいろなインプリメントがあるが、複数のアンテナや無線機が必要になる。これを示すのに「n×m MIMO」といった表記が良く用いられる。しかし、このnとmが何を示すのかについては従来は規定がなく、ベンダーにより異なっていた。

 Wi-Fi Allianceの認証プログラムではnを送信機の数、mを受信機の数と決め、アクセスポイント/ルータは2×2以上(送信機、受信機ともに2台以上)を必須、クライアントについては1×2以上(送信機は1台以上、受信機は2台以上)を必須とした。基本的には無線機の数(より正確にはストリームの数)は多ければ多いほど広帯域になるが、コストと電力消費量が増える。また環境によっては3×3でも帯域が限られる場合もあり、無線機数が多いから必ず広帯域であるとは限らない。802.11a/gの最大データ転送レートである54Mbpsが理論値であるように、802.11nの300Mbpsや450Mbpsという最大データ転送レートもあくまでも理論上の上限となる。

 もう1つデータ転送レートを引き上げるのに大きな効果を持つ技術に、40MHzチャンネルがある。既存の20MHzチャンネルに対し、隣接した2つのチャンネルを同時に利用することで2倍の帯域を利用可能にする技術だが、Wi-Fi Allianceの認証プログラムではオプションとなる。ただし、インプリメントする場合、それは5GHz帯の無線LANに限定される。2.4GHz帯は利用できる周波数帯域が限られており、Bluetoothなどそのほかの無線技術に干渉する可能性が高いからだ。2.4GHz帯で40MHzチャンネルを認めるかどうかは、IEEEでも議論があるらしいが、少なくとも現行のWi-Fi Allianceのロゴを取得するには、あきらめなければならない。

無線LAN製品を扱う各社のホームページでもWi-Fi Allianceのロゴマークが使用されている。左がバッファロー、右がコレガのホームページだ

The term Wi-Fi is a registered trademarks of the Wi-Fi Alliance. The Wi-Fi Alliance logo is a trademark of the Wi-Fi Alliance.
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