ここまで写真と動画で「iPad」を紹介してきたが、いかがだっただろうか? 順序が逆の気もするが、最後にサンフランシスコで行われたスペシャルイベントの模様の詳細を写真とともに振り返っていく。ウワサと比較して現実はどうだったか、この新製品でスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏らApple幹部は何を目指しているのか、改めて考察してみよう。
ある意味で、今回のスペシャルイベントとiPadというデバイスは、リーク情報に始まり、正式発表まで次々と飛び出すウワサ話に終始踊らされたものだったといえる。数年前からAppleがタブレットの開発に興味を持っていることはささやかれていたが、実際に開発を行っているという話が伝わってきたのは2009年の前半だ。その後、大手通信キャリアとの交渉が進んでいると英Financial Timesが伝えるとともに、長期療養から復帰したジョブズ氏が計画のやり直しを指示したなど、2転3転する状況が伝わってきた。
それから、秋ごろになって米New York Times幹部が内部ミーティングでAppleのタブレット製品に言及したことをきっかけに話題が再燃し、2009年12月から2010年1月にかけて次々とリーク情報が出現した。そして最後には、AppleがiPadについて一言も公言していないにも関わらず、電子書籍の提携パートナーとしてウワサされていた米MaGraw-Hill関係者が、スペシャルイベント前日のテレビインタビューでタブレットの存在を明かしてしまう、といった具合だ。

スペシャルイベント当日である1月27日朝のYerba Buena Center for the Arts Theater。午前9時受付開始の午前10時スタートにも関わらず、午前8時過ぎの時点ですでにこの行列。遠くでこの行列が見えたとき、歩くのがどれだけゆううつになったか……改めて考えてみれば、これらのリークはAppleによってコントロールされていたと考えたほうが自然な気もしてくる。例えば、イメージ作りのために定期的に真実を混ぜた情報を流しており、結果として出てきた製品は、事前情報のイメージとそれほど変わらなかった――イベント当日にタブレットが出てくることは誰も疑わなかったし、そのうえで製品の完成度やソフトウェア、周辺サービスがどう変化するのかを知ろうと考えていたはずだ。
事実、今回のイベントではiPad発表までの時間が非常に短く、プレゼンテーションのほとんどの時間をその概要の説明に割いていた。One More Thingもなく、明らかにiPadのためのイベントだ。タブレットの存在を示唆するような誘導の仕方や、1000ドル前後という事前のリーク情報ありきでの499ドルという価格発表など、Appleという秘密主義の企業の性格をうまく生かしたアピール方法だったと思う。
病気療養から復帰して半年が経ち、幾分か元気になったように見えるジョブズ氏は、終始にこやかにiPadを手にステージ上に置かれたソファに座りながら操作デモを行っていた。ネットサーフィンに電子メール、音楽や動画コンテンツの再生、スケジュール確認など、これまでもMacやiPhoneで何度もやってきたタスクの繰り返しではあるが、iPad片手に自由なスタイルでどこでも作業できること、iPhoneよりは画面が広くて性能の高いデバイスであることという2点が、iPadの立ち位置をうまく表しているという印象を受けた。MacBookよりは可搬性や使い方の自由度が高く、iPhoneだけでは物足りないという需要をカバーする第3のデバイスだ。

スピーチの冒頭はいつもの成果報告から。iPodの累計販売台数が2億5000万台を突破した(写真=左)。続いてニューヨークに2店目となるフラッグシップ店を2009年末オープンしたことを紹介。当日はテレビ中継なども入って大騒ぎだった。これを見に行こうと思い立って1月27日夜に手提げカバン1つでニューヨークへと向かったのだが、まさかあんなことになるとは……詳細は後編で(写真=右)
App StoreのiPhone/iPod touch向けアプリの累計ダウンロード数が30億を突破。そのほとんどが無料アプリではあるのだが、ユーザーが増えれば有料アプリで成功するチャンスも広がるわけで、スマートフォン向けアプリストアでは圧倒的な存在感を誇っていることは間違いない(写真=左)。そして直近の決算報告を聞いた方ならご存じだと思うが、同社会計年度で2010年第1四半期(2009年10〜12月期)の決算での売上が156億ドル。単純に4倍すると通年で640億ドルになり(実際には10〜12月期が最も売上が高くなる傾向があるので7〜8割程度だとみるといいだろう)、決算報告会見の中でジョブズ氏は思わず「Appleが年間売上500億ドルを突破する企業になるとは思わなかった」とコメントしていた(写真=右)

iPodとiPhoneが好調で、さらにMac製品でも売上の多くがノートPCのMacBookからきていることを考えれば、Appleはモバイル機器を販売するメーカーだといってもいいというのがジョブズ氏の意見だ。しかもその利益はソニーやSamsungは言うに及ばず、携帯電話で世界シェア40%を突破しているNokiaをも上回っている世界一の企業だと宣言する(写真=左)。前フリが終わったところで今回のテーマへ。例のイラストがスクリーンいっぱいに映し出される。いつもここまで来るのが長いのだが、今回はかなりあっさり本題に(写真=中央)。TabletというかSlateというか、今回登場が予感されるものについてWall Street Journalのコメントとともに風刺画(?)を表示。モーゼの十戒以来の興奮とは、ずいぶんと大きく出たものだ(写真=右)
iPhoneとMacBookという便利なデバイスが2つ存在するが、その間に何か足りないものがあるというのがジョブズ氏の意見。求められるタスクはiPhoneやMacBookでも代用可能だが、「帯に短したすきに長し」ということわざ通りなのだろうジョブズ氏による一通りのデモを見ていて気が付くのは、iPadはとにかくすべてのアプリがもたつきなくスムーズに動作する点だ。iPad本体を回すと画面もそれに沿って本当に“ぬるぬる”とローテーションしてくる。指の動きにソフトウェアがついてこないタブレットやスマートフォンなどのタッチパネル端末がいまだ多いなか、これだけでiPadの製品としての完成度が高いことがうかがえる。筆者が今回のリポートでイベントより先に写真と動画を優先的に公開したのも、こうしたファーストインプレッションをみなさんにまず知ってほしかったからだ。

ジョブズ氏によるWebブラウジングのデモ。New York Timesで最新ニュースをチェックしたり(写真=左)、Fandango.comで映画の上映時間チェックやチケット予約も簡単に行える(写真=右)
電子メールアプリを開いてメールチェック。添付の写真やPDFファイルを拡大してみたりすることもできる(写真=左)。ソフトウェアキーボードを打つときはこんなスタイル。製品チェックのために何度も練習したのか、かなり手慣れた様子(写真=右)
iTunesで音楽再生。iTunes LPの機能も利用可能だ(写真=左)。カレンダーは広い画面をいっぱいに使ってスケジュールが見やすい。指でスケジュールをなぞると、ポイントした部分の詳細スケジュールが吹き出し形式で拡大表示される(写真=右)Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.