大学が学生に提供する情報としては、休講・補講情報、成績開示などいろいろあるが、慶應義塾大学の場合、上記に挙げた情報は学生なら家からでもアクセス可能だ。「学内ネットワークか学外かで大きく変わるのは、データベース関連くらいです」と中村教授は話す。
慶應義塾大学の図書館は、大学の所属者(学部生や教職員など)に対して電子ジャーナル(電子化された学術雑誌)やデータベースを提供している。これらのデータは図書館に直接出向かなくても、Web上でリモートアクセスでき、学生はこれを利用して論文の検索や新聞・雑誌の記事を検索、閲覧が可能となる。課題や卒業論文作成の際には非常に便利なサービスだ。
外出先や家など、どこからでもアクセス可能なサービスもある一方で、コンテンツの提供元との契約上、大学の敷地内や図書館内でしかアクセスできないサービスもある。特に図書館限定の場合はやっかいで、土日は図書館が休みだったり、開館時間が短かったりするので、いざ論文を書こうとしても参考文献にアクセスできないということもある(筆者は土日にじっくり課題を行うことが多かった)。
しかし、学内ネットワークに接続しているのと同じSFC専用のWiMAX契約はここが違う。上記のデメリットなしに、家でも外出先でも、これらのサービスにアクセスできるというわけだ。
校舎内でWiMAXの速度を「BNRスピードテスト」にて計測してみたが、下りは1.42Mbpsで上りは1.27Mbps(3回計測の最高値)だった。屋内でも1Mbps(=約125Kバイト/秒)以上の速度が出るため、Webページの閲覧や動画コンテンツの視聴程度ではストレスを感じることがなかった。キャンパス内にWiMAX基地局を設置しているので、屋外ならばさらに速度が上がると予想される。
「どこでも使えてしまうので、(SFCの敷地内なら)学内無線LANに切り替えた方がいいって気付かない学生もいるんですよ」と中村教授は話す。学内無線LANの速度も計測してみたところ、上り/下りともにおよそ25Mbps(=約3Mバイト/秒)だった。
WiMAXを利用したイントラネットのアクセスサービスは、管理する大学側にもメリットがある。「学生が学校の敷地外にいたとしても、キャンパスネットワークからインターネットにアクセスすることになる。例えば、著作権に抵触するコンテンツをアップロードした学生がいたとしても、まず大学にクレームが来て、大学としてしっかりとした対応ができるところがいいと思っています」(中村教授)
SFCのキャンパスネットワークは、ファイアウォールのレベルを非常に低く設定しており、閲覧制限などの規制はないものの、大学側はアクセスしている学生の情報を取得できる。いざというときに学生を管理、指導するための体制は整っているというわけだ。学生をキャンパスネットで守る、という緩やかな管理体制には、学生の自主性を重んじる大学側の意図が見て取れる。
このサービスは、イントラネットとWiMAX網がシームレス接続するということで、企業にとっても“より進んだ社内ネットワークの実現”という面で有効な手段になりうる。中村教授は「もし同じシステムを企業が採用するならば、ファイアウォールをもっと高く設定すればいい。私自身は気が進まないが、大学だって学生を守ることだけを考えれば、そういった方法もとれる」と述べた。
では、一体どれほどの人がWiMAXに契約しているのか。正確な数値は公開できないとしながらも「ネットワークのうち、大体5〜10%ほどがWiMAXで常時接続している。アカウント数はもっと多いので全学生のうち15〜20%程度が契約しているのではないか」と教えてくれた。SFCに在籍する学生はおよそ4000人。そのうち600〜800人くらいがWiMAXを使っている計算だ。
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