かねてから予告されていたとおり、iPhone 5の投入と前後して、iOSも「iOS 6」になる。
このiOS 6において、日本のユーザーの関心が高いのが、Appleが独自開発した新たな「地図」と「カーナビ(ターン・バイ・ターン・ナビ)」機能だろう。
今回のiPhone 5のテストにあたり、筆者はこの地図とカーナビ機能を重点的に使ってみたが、現時点での評価を忌憚なく述べれば「いまだ荒削り」の一言になる。従来のGoogle Mapsベースのものから大きく変わってしまい、しかもそれが日本のユーザーニーズに沿ったものではないため、戸惑う人も少なくないだろう。
最初に「地図」の部分であるが、サンプルを見てもらえば分かるとおり、iOS 6のものは情報量が不足している。道路幅や建物の情報が少なく、さらに日本のユーザーにとって使いにくいのは、交差点情報や鉄道路線、駅の情報が乏しいことだ。従来の地図では地下鉄駅の出入り口まで記載されているのに、iOS 6の地図にはそれらがない。Appleの地図サービスでセールスポイントになっている、街の上空を飛び回るような感覚で航空写真を表示できる「Flyover」機能が日本で用意されていないのも寂しいところだ。
この情報の不足は、カーナビ機能でも深刻だ。日本のカーナビでは当たり前になっている渋滞情報に対応していないだけでなく、左折・右折規制や時間帯規制情報を持っておらず、道路規制を無視したルート案内をしてしまうことがある。また、ルート案内は走る「道路名」を案内していく“米国方式”であり、右左折時も交差点名や目印の案内はない。これは道路の構造が複雑で、欧米のようにすべての道路に名前が付いていない日本ではとても走りにくい仕様である。
このように地図とカーナビの部分に関しては、日本の市場特性への最適化が不十分であり、今のところ不満が多く残るものであったのは確かだ。しかし、そのような荒削りさがある一方で、この新しい地図とカーナビに可能性を感じたのも事実である。
例えば、地図の描画や拡大・縮小、スクロールは従来の地図よりも確実に高速化している。今後、地図上の情報が増えていってもこのスピードが維持されるなら、従来よりも使いやすいものになるだろう。
カーナビ機能の部分では、ナビゲーション中の動きのなめらかさや、右左折ポイントで3D表示から自動的に走行位置を把握しやすい2D表示にアニメーションしていくUIデザインなどはとても秀逸だった。またマップマッチングの精度が予想以上に高いのにも驚いた。こちらも日本の道路特性に合った形での情報量の増加と改善が進めば、実用性や使い勝手が向上するのは間違いない。
過去を振り返れば、Appleは当初は荒削りだった機能も持続的に改善を繰り返し、よりよいものに仕上げっていった実績がある。日本特有のニーズだった絵文字対応などはその好例だろう。しかも今回の地図とカーナビの課題となっている部分は、すべてソフトウェアの改修や収録情報の拡充で改善できるものばかりだ。その点も勘案し、期待を持って見守りたい部分である。
そして、もう1つ今回のiOS 6で取り組まれたのが、Facebookとの統合だ。あらかじめ「設定」−「Facebook」で自分のアカウントを設定しておくと、カレンダーと連絡先の情報をFacebook上のデータと連係。Facebook上のソーシャルグラフが、iPhoneから使えるようになる。
ここで便利なのが、写真のカメラロールから直接写真をウォールに投稿できるようになったことだろう。また、通知センターからFacebookやTwitterに投稿する機能なども用意されており、ソーシャル機能とiOS 6との統合はさらに一歩進んだ印象だ。
スマートフォンが多くの人々に、広く普及していく世界。今日のコンシューマー向けスマートフォン市場を創りだしたのがAppleであることについては、多くの人が異論を持たないだろう。2007年に故スティーブ・ジョブズ氏が初代iPhoneを掲げた日から、スマートフォンは一部のユーザーではなく、老若男女だれもが持てるものになり、世界は変わったのだ。
あれから5年。
iPhone 5を試しながら、筆者がずっと感じていたのは、初めてiPhoneをさわった時に似た興奮と感動だった。正常進化に見えて、今回のiPhone 5とiOS 6は多くの箇所が刷新され、まったく新しいものに生まれ変わっているのだ。単なる進化ではなく、そこにあるのは飛躍である。それはiPhone 5を手に取り、ほんの少し触れば分かるはずだ。
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