MicrosoftとOpenAIの「独占契約終了」が意味するもの──AI覇権を巡る両社のしたたかな戦略Windowsフロントライン(1/2 ページ)

» 2026年05月01日 12時00分 公開

 MicrosoftとOpenAIは4月27日(米国時間)、両社の間で結ばれている提携契約の内容見直しを発表した。

 これまでの契約は、OpenAIのChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)がMicrosoft Azureのクラウド上でホスティングされていたり、ChatGPTを含むOpenAIの資産をMicrosoftが自社サービスの一環として提供していたりする取り決めに相当するものだった。

 しかし、今回の見直しにより、これまでAzureに独占提供されていたOpenAIの各種言語モデルやサービスが、AWSを含む他社クラウドへも提供可能になる点が大きなトピックとなっている。

 Azureは引き続き最優先提供先である点に変更はないものの、これまでMicrosoftのサービス圏内に囲い込まれてきたOpenAIの資産がライバル企業へも提供されるようになったことで、市場の勢力図に変化が起きると考えられている。

 一方でエンドユーザー向けのサービスとして「Copilot」を提供しているMicrosoftだが、近年では強引なOSとのサービス統合に反発する声も大きく、特にWindows内で提供されるAIサービスについてCopilotの名称を外す動きが見られるなど、自社サービスのブランディングに苦慮している側面もある。今回は「MicrosoftとAI」をテーマに、同社を取り巻く周辺事情を少しだけ整理したい。

OpenAIとMicrosoft
米サンフランシスコで開催されているStripe Sessions 2026に登壇するOpenAI CEOのサム・アルトマン氏(左)。対談するのはStripe CEOのパトリック・コリソン氏(右)

両社の独占契約終了は市場でどう受け止められているか

 27日の発表を受け、Microsoftの株価(MSFT)は一時4%ほど下落したものの、同日の取引終了にかけて元の水準を回復している。一見するとOpenAIのIPを独占していたMicrosoftにとってマイナスにしかならない発表のように思えるが、なぜ市場は発表を(少し時間をかけて)好意的に受け止めるようになったのか。

 理由の1つは、OpenAIとの間で結ばれていた提携契約の見直し内容にある。両社間の提携契約には売上シェアリング(Revenue Sharing)条項があり、OpenAIが自社サービスでの売上をMicrosoft側に一部還元したり、逆にMicrosoftがCopilotなどのAI製品で得た売上の一部を提供したりしていた。

 見直し内容で挙げられた項目の中に「Microsoft will no longer pay a revenue share to OpenAI.」という文言があり、少なくともMicrosoft側からの還元は以後完全にストップすることが判明している。今後はMicrosoftの決算においてグロスマージン(利益率)の改善が見込まれることが、プラス材料と捉えられたのだ。

Microsoft株式(MSFT)の4月27日前後の動きをNano Banana 2で作成

 このあたりは利益に直結する話だが、MicrosoftとOpenAIの独占契約が両社にとってのリスクファクターとなっていた面が近年強くなっており、中長期的に見て、このタイミングでの発表がプラスに働くと考えた人は多いようだ。

 リスク要因はいくつか存在しており、その1つは「AGI(Artificial General Intelligence)条項」と呼ばれるものの存在だ。両社の独占契約はAI開発者や投資家らが“人工知能”に近付く一歩としてマイルストーン的に捉えていた「AGIへの到達」をもって終了するというもので、OpenAIが諸般の事情で“独占契約を終わらせたい”と考えたときに早期に発動することも可能で、特にMicrosoftにとって将来への不透明性は大きなリスクファクターだった。

 だが、修正内容では独占契約終了とともに「Microsoft will continue to have a license to OpenAI IP for models and products through 2032.」と2032年までのMicrosoftによるIP利用権が明記されており、少なくとも6年弱は、これまで通りMicrosoftが自社製品の一部としてOpenAIのGPTやSoraなどの仕組みを提供可能とされた。

 また、これもMicrosoft側にとってのリスク要因となるが、両社の独占契約を巡っては独占禁止法の観点から規制当局らの調査が始まっていると言われており、OpenAIの株式の約27%を所有する最大株主(次点は約26%を保有するOpenAI Foundation)のMicrosoftにとって、その影響は少なからずインパクトを与えるとみられている。

 だが、このあたりの話題はOpenAIにとっても大きなリスク要因になり得る。例えばOpenAIは2026年後半以降の株式公開(IPO)を目指しており、上場申請に引っかかる事項はなるべく潰しておきたいのが本音だ。ある意味でMicrosoft側が譲歩する形になるのは願ったりかなったりかもしれない。

 そしてこれが一番重要な話だが、IPOを目指す上でOpenAIにとって独占契約の存在は最も大きな壁だったといえる。会社の立ち上げ初期は膨大な計算リソースを必要としていたことからMicrosoftの大規模な投資(そのほとんどはAzureを利用するための“クレジット”だったと言われる)はOpenAIにとってありがたいものだったが、事業が軌道に乗りつつある今、これがかえって成長の足かせとなっている。

 報告されるケースでは、主にクラウドとしてAWSを利用する顧客がAWS内でOpenAIのリソースを使えず、Azure経由でAPIにアクセスする必要があったことから案件を取り逃すケースが少なからずあったという。

 OpenAIとしてみれば、AWSにしろGoogle Cloudにしろ、Microsoftの競合クラウドベンダーに技術を提供できた方が顧客獲得機会が増えるわけで、特に売上の多くを占めることになるエンタープライズ顧客を得る上でマルチクラウド戦略は切っても切り離せない。ベンダーロックインの観点からもAzureへのロックインが発生するOpenAIを避けたいというユーザーはいただろう。

 ゆえにOpenAIのIPOにおいて最も重要な要素は独占契約の終了にあったといえる。逆に言えば、IPOの大前提としてMicrosoftとの独占契約終了があり、2026年後半以降というIPOの時期についても今回の件を見越して設定されたものと考えていいのかもしれない。

OpenAIが上場するとみられている、Nasdaq市場が入居する米ニューヨークのタイムズスクエアにあるConde Nast Building(4 Times Square/写真左側のビル)
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