写真を撮影するときに重要な3つの要素がある。テーマ(被写体)の選択、ライティング、フレーミング。これは写真の基本だ。この3つを定めたら、次は写真の「色」を考える。僕がフォトグラファーになったころは、撮影にフィルムを使っていたので、ある意味で色のコントロールは楽だった。
プロ用のポジフィルムはプロラボ(現像所)に冷蔵されて品質を管理されており、製造時のロット番号ごとに現像結果がデータとして公表されていた。大体のポジフィルムは025M(0.25%マゼンタ)くらい色が傾いており、厳密な色表現が必要な撮影ではコダックラッテンフィルターの025G(0.25%グリーン)をレンズ前に装着して撮影する。
補正の必要がないフィルムを運よく見つけたときは、ロット単位でまとめ買いをして冷蔵庫で保管する。フィルターを装着するとわずかだが画質が落ちるので、高品質なフィルムを手に入れると撮影がとても楽になった。
こうした一連の作業は昔からマニュアル化されており、“正しい色”を得ることは割と簡単だったのだ。現像が上がったポジはイルミックスの上に乗せれば5000Kの色温度(商業用紙媒体における評価基準、印刷会社に印刷を依頼するときに使う)で正しくチェックできる。
微妙な色合いが要求される写真でも、ポジ袋にダーマトグラフで「ポジの色に忠実に」と書いておくだけで、正確な色で印刷物が仕上がる。デザイナーも印刷会社の職人さんも、長い歴史に裏打ちされた細かいテクニックを持っていたので、こちらの意図が裏切られることはまずなかった。
ところが、2000年ぐらいからデジタルカメラが仕事の主役となり、「色」は深刻な問題となった。ポジフィルムのような物理的な色見本が存在しなくなったからだ。デジタル一眼レフカメラの背面液晶で確認できる画像は、実物と色合いが異なることがある。ノートPCに写真のデータを取り込みディスプレイで確認したとしても、見えた色が正しいとは限らないのだ。
また悪いことに、人間の脳は色を自動的に補正してしまう。色温度がかなり高い青みがかった写真でも違和感を感じないので始末が悪い。正しい色を確かめられないまま写真を入稿し、印刷結果が悲惨になることもたまにあった。印刷会社もデザイナーも、そしてフォトグラファーも皆、まだ「デジタル」に慣れていなかったため混乱したのかもしれない。
ポジフィルムの場合、イルミックスでチェックすれば安定した色温度の光(透過光)が得られるので、まず間違いは起こらない。しかし、ノートPCの液晶ディスプレイに内蔵されているバックライトはそこまで厳密に作られてはいないのだ。
正しい色を得るためには、ディスプレイをキャリブレーションするか、プリンタをPhotoshopで制御してプリントアウトし、印刷物と実物を比較して色を確認するしかないのだが、ロケではそんな面倒な作業をする時間はない。とにかく色味が信用できるノートPCは、僕らプロフォトグラファーがずっと待ち望んでいたものだった。
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