アキバの老舗店「パソコンSHOPアーク」は、PCゲーマー御用達のパーツショップとして根強いファンが多い。以前、ゲーマーに特化した店作りの背景や、注力している分野を店長の村上斉之氏に伺った。今回はそこからさらに1歩踏み込み、「PCゲーマーのためのパーツ選び」と題して、今ゲーミングPCを自作するならどんな部分がポイントになるのか具体的に聞いていく。
通常、ゲーミングPCで重要視されるパーツといえば、描画性能に直結するグラフィックスカード、と思いきや、連載第1回の題材としてはやや意外な返事が返ってきた。「まずはじめにきちんと選びたいのがメモリです」――そう答えてくれたのはパソコンSHOPアークを運営するタワーヒルの石井克朋氏だ。
運営管理部の統括マネージャーを務める石井氏は、“メモリに強いアーク”というブランドを創り上げたメモリ担当の両翼の一人(実はアークにはメモリだけで2人の仕入れ担当者がいる)。いわばメモリの達人である。
なぜ第1回でメモリを取り上げたのか。その理由は“複雑なメモリ事情”にある、と石井氏は語る。
メモリを購入する際、特にモジュールメーカーにこだわりがなければ、DDR3-1600(PC3-12800)といった、利用するシステムに対応したメモリバスの種類(と価格)にまず目が行くが、たくさんの商品があることからも分かるように、同じ仕様ならすべて同じというわけではない。
その大きな理由の1つは、DRAMメーカーと、モジュールメーカーが異なる点にある。DRAMメーカーはチップを製造してモジュールメーカーに納品し、モジュールメーカーはそれをアセンブリする。半導体という性質上、ウェハから切り出せるチップに偏りが出るのはPC USERの読者であればご存じの通りだ。ウェハの中心部分は質が高く、外周になると耐性が低かったり、電気的にムラがあるものになりやすい。
石井氏は「例えば、DRAMメーカーがDDR3-2400での動作を保証して、モジュールメーカーに卸したものでも、その中にはDDR3-3200で動くものもあれば、ギリギリのものもあります。そうしたレギュレーションはメーカーによって様々です。こうしたことを熟知しているバイヤーや自作マニアは、かつてDRAMに刻印された文字列から、産地やロットを読みとって“当たり”(耐性が高いもの)を探すということもしていました」と当時を振り返る。
「まったく同じ工程でもロットによって質に差が出るのは、2週間に1回くらいの頻度で製造装置を清掃する必要があるためです。2、4、6と製造週が進むごとにクリーニング後のリキャリブレーションが発生し、出来上がりが変わってしまう。メモリはワインのようなもので、同じ畑でも年によって豊作だったり不作だったりするわけです。もちろん調整用のプリセットデータはあるのですが、最終的には人の勘というか、実はすごくアナログな世界なんですよ」と石井氏は説明する。
これをビジネスに昇華できないかと考えたのが、コルセアやOCZといったソーティングメーカーである。質の高いDRAMを選別して仕入れ、DRAMメーカーの基準よりも高い電圧で動作させることで付加価値をつけた、いわゆるオーバークロックメモリを商品化し、自作PCのオーバークロックブームにも一役買った。モジュールメーカーが独自に保証をつけて販売する分には、DRAMメーカー側のレギュレーションを逸脱していても問題にはならない。かつてほとんど効果がないヒートスプレッダを装着したOCメモリが市場に並んだ背景には、使用したDRAMを非公開にするためという意味合いが大きかったらしい。
そしてもう1つの大きな理由は、ETT(Effective Tested)やUTT(Untested)と呼ばれるメモリの存在だ。これらのDRAMも正規チップと同じ工程で製造されており、基本的な違いはない。ただし、レギュレーションを満たすための検証が行われておらず、簡易的なテストをしただけ、またはまったくしていないものになる。
こうした歩留まりの悪い廃棄予定のチップや、メモリの供給過多による値崩れを防ぐために、未テストのまま出荷待ちになっているものが、DRAMメーカー間の値下げ競争によってモジュールメーカーに卸されることがある。コストのかかる検証を省いている分、非常に安いのが特徴だが、当然、DRAMメーカー側の保証はない。
「少し使っただけなら普通に動くメモリでも、高い負荷をかけたり、使用環境の温度や長期間の使用によってきちんと動かなくなるものがあります。実はメモリは、最初の使用から24時間で壊れる確率よりも、その後の6日間で壊れる確率のほうが圧倒的に高い。しかしETTと呼ばれるメモリは、それほど長い時間をかけて動作検証はされていはいません。しかし今市場に出回っているメモリを見ると、7割くらいはヒートスプレッダー付きで、それが正規のものかETTなのかを判別するは難しいのが現状です」と石井氏は問題点を指摘する。
「なぜ最初にメモリを取り上げたのか。これは一言でいえばメモリの製造コストが低いためです。例えば、グラフィックスカードは基板上にBGA(ball grid array)でチップが実装され、それ自体が複雑な構造をしており、製造コストも高い。つまりミスが許されないので、品質の当たり外れが少ない。一方、ジョイントモジュールでしかないメモリは、失敗しても廃棄がしやすいという特性から、品質のばらつきが大きい。メモリ選びのポイントをきちんと押さえておかないと、結果的にシステムが不安定になったりしやすいのです」。
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