←・前編:「NuAns NEO」開発秘話 iPhoneフォロワーから脱して独自のこだわりで挑む
トリニティが2016年1月末に出荷を開始した「NuAns NEO」は、国内販売のWindows 10 Mobile搭載機で初めて「Continuum」機能をサポートし、個性的な着せ替えカバー型のボディーを採用するなど、他と一味違うことを感じさせるスマートフォンだ。
アドバイザーとして同製品の開発に携わった本田雅一氏のインタビュー後編では、ボディーデザインへの強いこだわりやそれにまつわるストーリー、Windows 10 Mobileの可能性、そして今後の展開について、じっくり語ってもらった(前編はこちら)。
―― 「NuAns NEO」はMicrosoftのCTE(China Technology Ecosystem)を活用して開発したと伺っています。しかし、CTEでここまで凝った筐体は異例ですよね。どのようにして個性的なデザインを実現したのでしょうか?
本田 確かに僕らはCTEを活用していますが、外装はメカニカルデザインの3Dデータから独自に起こしています。NuAns NEOのプロジェクトを一緒にやってきたTENTの2人(インダストリアルデザイナー・アートディレクターの青木亮作氏、治田将之氏)は、大手家電メーカーやカメラメーカーなどで経験を積んでいます。
もちろん、細かなすり合わせは必要ですが、機構設計を含むデザインに関しては日本主導でした。というよりも、外装に関しては最初からスマートフォン本体である「CORE」の設計とは分離し、「TWOTONE」と「FLIP」の両方のカバーを別々に開発、生産しています。
それと、最初から個性的なデザインを実現しようと思ったわけではないです。スマートフォンを毎日使っている開発メンバー全員が、今のスマートフォンに対する不満点を挙げ、それらの解決方法を模索している中で、外装よりも先にどのような端末にしたいのかをまとめてから、要件を実現できる設計として今のデザイン向かいました。
―― 現状のスマートフォンに対してどのような不満があったのでしょう?
本田 まずはバッテリーの持続時間が短いという不満です。そこで、大きなバッテリーを搭載しても破綻しないデザインが必要となります。
また、IC内蔵カードが当たり前の社会になっていることから、何枚かのカードは本体内に収納したいとみんなで話をしていました。もっとも、3枚くらいは入れたいとか、1枚だけで十分とか、いろいろな意見はあったのですが。僕自身はストレート型の筐体なら1枚、フリップ型なら+2〜3枚ぐらいが妥当かなと。1枚の場合でも、なるべく簡単に出し入れできるようメカ設計で工夫しようと考えました。
そういった要件を積み重ねていくと、どうしても薄型の方向には行きません。この辺りの意見をまとめながら、同時並行してデザイナーとの話を進めました。具体的にこのデザインが決まっていくのは、さらにその次の次ぐらいの段階ですね。
―― 開発は2015年4月末ぐらいに始まったと伺いましたが、最終デザインが決まるまでどのようなプロセスがありましたか。
本田 「やることにしよう」と意識を合わせていたのはそのころですね。実際のキックオフミーティングは2015年5月22日でした。まずコンセプトや必要な機能要件、もちろん実現できないかもしれない機能も含めてですが……をまとめ、そのコンセプトをデザイン担当のTENTの2人(インダストリアルデザイナー・アートディレクターの青木亮作氏、治田将之氏)に話しました。
当時、NEO以外のNuAns製品については製品発表を終えた後でしたが、実際に彼らが加わるかどうかは決まってませんでした、まずは「やりたい」と思ってくれるかを確かめました。この辺りのプロセスが5月下旬だったと思います。
―― 先ほども(前編でも)少し話がでましたが、最初は「NuAns」ブランドとして発売するかどうかも決まっていなかったのですね。
本田 NuAns NEOはデザインだけでなく、素材屋さんも、成型技術屋さんも、それにもちろんEMSパートナーもですね。いろんな人が自分たちから「やりたい」と思ってくれないと成立しないプロジェクトです。
いくら必要なコンポーネントがそろっていて、開発経験が豊富なEMSパートナーも探せばたくさんあると言っても、ただの1台の出荷実績もなく、予算も限定的なわれわれが、スクラッチから端末を作るには困難だらけです。そんな困難を乗り越えて、どこまで売れてくれるかも分からない。特にTENTはデザインスケッチさえないところでの声がけでしたから、まずは本人たちが「やりたい」と思ってくれないと、力を出しにくいですよね。
実際、当初は「今使っているiPhoneに大きな不満がない。不満がないということは、新しいものをデザインの力で生み出したいというエネルギーにつながらない。それにWindowsのスマートフォンは聞いたことがない」と思い、この話を断ろうとしていたようです。
しかし、よくよく話を聞いてみると、「iPhoneとは別の方向でデザインできるかも?」と思い直したようですね。TENTが合流して最初のミーティングは6月5日でした。
―― そして生まれてきたのが、製品版のカバーとなった「TWOTONE」に「FLIP」ということですね?
本田 ものすごく省略すると(笑)そうなります。が、さすがにそこまで単純じゃないですね。実際にわれわれは並行して、外装を形作る筐体をどんな素材にするかを調査していました。ケイズデザインラボ(K's DESIGN LAB)という金型や射出成型の技術、あるいはテクスチャー素材や各素材の特性、加工手法などの動向に詳しい、業界の中ではよく知られた会社です。
トリニティの商品に「次元」というシリーズがあります。このシリーズで使っていたのが、K'sの「D3テクスチャー」という技術でした。3Dスキャナで読み取った天然素材を金型にして成型するのですが、この際にきちんと「抜ける」よう補正をかけて複雑なテクスチャーも成型で実現します。
ちょうど2015年の初めぐらいに大人気で売り切れ続出だった化粧品のコンパクトケースなどもK'sの仕掛けです。これは、レンズ効果を持たせた色付きの透明樹脂をD3テクスチャーで立体的に成型し、反対側にインモールド成型(金型にフィルムなどの別素材を入れて成型する方法)でレンズと組み合わせて美しく見えるようデザインされたフィルムを配置する構造でした。安価でバリエーションも豊富に作れます。
これだけではないのですが、K'sさんにいろいろな取り組みを紹介いただいて検討を進めていたところに、TENTの合流が決まり、彼らと一緒にK'sを再訪問して、どんなデザインへの応用の可能性があるかを持ち帰りました。
同時にEMSパートナーの候補数社、Microsoftなどと話をしつつ、FeliCaネットワークスとおサイフ機能(当時はまだSIMロックフリー機で対応例はなかった)を入れられないかとか、名前は出せませんが、大手電機メーカーやB2B向けにスマートフォン開発を行っているメーカーと、部品やシャシーの共同調達などの協業ができないか、といった話も進めていました。
そうしているうちに、TENTからデザインモックとともに幾つかのデザイン提案が出てきたわけです。最初のデザイン提案が6月29日で、ここで確か2〜3種類の大まかなデザイン提案がありました。
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