筆者は2012年10月25日、米ニューヨーク市のタイムズスクエアにいた。日付が変わった翌26日より発売されるWindows 8ならびに「Surface RT」(当時の名称は“Surface”)の前夜祭というか、発売直前カウントダウンの取材のためだ。
本来であれば、25日に同市内で開催されたMicrosoftのSurface RTお披露目イベントに参加予定だったのだが、直前までイタリアのミラノで別件の取材をしており飛行機移動が間に合わず、撤収直前の発表会場に滑り込んで10分ほど写真撮影をしつつ、そのままタイムズスクエアに移動してカウントダウンの場面に居合わせたという感じだ。
2012年10月25日(米国時間)の深夜、日付が変わる直前にタイムズスクエアを“ジャック”してカウントダウンのイベントが行われた。後にも先にもMicrosoftがここまで宣伝予算をかけて、OSと新ハードウェアのアピールをしたのはこのタイミングだけだろうさて、そんな華々しいデビューを飾ったWindows 8とSurface RTだが、その後の経過をご存じのみなさんならお分かりかと思うが、この2製品はMicrosoftでも歴史的な失敗作の2つとして認識されている。
カウントダウンイベントでSurface RTを購入した筆者は、その後ミラノ経由でいったん欧州へと戻り、アイルランドのダブリンにいる友人を訪問しつつ、1週間後にフランスのパリで開催される展示会取材へと移動する過程でSurface RTを使い続けてきた。
その模様はPC USERでも何回かにわたってレポートしているが、軽量で手軽に使える反面、移動しながら使うにはキーボードに難があったり、少し凝った作業をさせるとパフォーマンス不足やWindows Storeの制限による不得手な部分が目立ったりと、昨今のWindows on Armデバイス群と比べてユーザー体験的には厳しい印象を受けた。
既に13年以上前の話とはなるが、先日追加公開されたばかりのエプスタイン(Epstein)文書の中で、当時Windows事業の責任者だったスティーブン・シノフスキー(Steven Sinofsky)氏が故人で渦中のジェフリー・エスプタイン(Jeffrey Epstein)氏とやり取りしていた電子メールの内容が含まれており、このSurface RTの実際の販売状況と当時のMicrosoft社内の混乱が垣間見られることが話題となっている。
エプスタイン文書については全ドキュメントが米司法省の専用ページから検索機能付きで誰でも閲覧できるが、当時を振り返りつつその内容を追ってみたい。
エプスタイン文書の時系列としては逆になるが、Surface RTの販売状況にまつわる当時の混乱状況を示す文書がPDFでまとめられている。
これは2013年にMicrosoftがSurface RTの在庫処理において9億ドルの減損処理を行ったことに関連して、シノフスキー氏が2012年11月初旬に幹部社員らと交わした当時の電子メールによる応酬の内容をエプスタイン氏に転送したものだ。
シノフスキー氏はメールのやり取りから約1週間後、米国時間の11月12日にMicrosoftからの退職を発表しているが、このエプスタイン氏へのメール転送は「(9億ドルの減損は)なるべくしてなった」という意図があるとみられる。
PDFの文書は20ページほどあるのでポイントだけを抜粋するが、Surface RT発売から約1週間後の11月4日(米国時間)にシノフスキー氏は当時Microsoft CEOのスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏にSurface RTの販売状況について説明しつつ、すぐにでも“テコ入れ”をするアクションを起こさないと危機的状況に直面すると警告のメールを送っている。
対策として、それまでMicrosoftのオンラインストアならびに公式リテールストアのMicrosoft Storeの店頭販売のみだったSurface RTについて、ホリデーシーズン商戦前半戦の12月1日までにBest BuyやStaplesのような量販店に販路を拡大し(在庫のねじ込み)、中国を含む他地域での販売も一気に拡大すべきとの意見を出している。
それに対し、バルマー氏はメールのやり取りにCOOのケビン・ターナー(Kevin Turner)氏を交えつつ「慎重に検討すべき」とコメントしていた。
これを受けたターナー氏はいくつかの観点からシノフスキー氏の意見に対して反論しているが、この中で最も注目すべきは「ホリデーシーズンを前に(PCの)在庫が積み上がっているOEMに対して(Surface RTの量販店への一気の拡大を)発表するのは、先方を激怒させるのみならず、OEMの売上をわれわれが奪うことにもなり、結果として両者の関係を損ねる」と説明している部分だ。
当時、Windows OSそのものが動作する「Surface Pro」を、Windows RTのみが動作するSurface RTの“90日後”に販売するとMicrosoftでは発表していたが、これはホリデーシーズン商戦にOEMの競合製品をバッティングさせないためでもある。それにもかかわらず、自社の利益優先でSurface RTを一般販売店にねじ込むのはマズイという判断だ。
その少し後のやり取りで、シノフスキー氏はSurface RTの置かれている状況について現状を説明しており、それによればウォール街のアナリストらの予測値でSurface RTの販売台数は2012年において平均値が300〜500万台で、最も低い数字で100万台となっている一方で、Microsoftが現状で見積もっている実数は25万台程度と最低の予測値のさらに4分の1に過ぎないと述べている。
それにもかかわらず製造された在庫は積み上がり続けており、このままでは2012年終了時点で100万台以上の在庫が残ることになると述べている。
これにより、もし実数が明るみに出て「Surface RTは(失敗作である)Zuneの再来」とでも世間の評価を受けるようになれば、2013年における販売に大きなダメージを与えることになるというのがその説明だ。
結果として、メールの冒頭部分の説明にあるようにMicrosoftは最終的に同年に9億ドルの減損処理を行うことになるのだが、既に11月初旬時点でSurface RTの失敗は内部的にほぼ確実視されていたことになり、シノフスキー氏の退職へと繋がったと考えられる。
理由としては、おそらく意見の相違で敗戦処理をやらされるよりは、事前に勇退という道を選んだのだろうと思われる。
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