“7000円台”のWindowsタブレットが米国で発売!――Microsoftは何で収益を上げるのか?鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/2 ページ)

» 2014年12月10日 20時30分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

変革するMicrosoftのビジネスモデル

米Microsoftの最高執行責任者(COO)であるのケビン・ターナー(Kevin Turner)氏

 米アリゾナ州フェニックスで12月4日(現地時間)に開催された「Credit Suisse Technology Conference」にて、米Microsoftの最高執行責任者(COO)であるケビン・ターナー(Kevin Turner)氏が講演した。そこで明かされたWindows 10のロードマップを含む、同社の最新戦略が興味深い。

 Windows 10が発表された9月末のイベントを紹介した連載記事でこの辺りの事情を説明したが、ホリデーシーズンを迎えた米国におけるWindows搭載製品の動向を紹介し、ここ最近のMicrosoftの戦略を振り返りつつ、今回のターナー氏による発表も加味したうえで、Windows 10の最新ロードマップを整理していこう。

米国では59.99ドルの7型Windowsタブレットが販売中

 米国では11月最終金曜日よりホリデーシーズン商戦が開始され、今年は安価なWindowsタブレットやノートPC製品が話題になっている。

 7月に米Microsoftが開催したイベントでターナー氏がHewlett-Packard(HP)の100ドルWindowsタブレットと200ドルノートPCをリーク的に発表して話題となったが、現在これらは「Stream 7」と「Stream 11」の名称で目玉商品として販売中だ。100ドルWindowsタブレットを発売したのはHPだけでなく、東芝の「Encore Mini」などもあり、ユーザーには複数の選択肢が提供されている。

 さらに量販店のMicro Centerは、通常価格89.99ドルの自社ブランド7型Windowsタブレット「WinBook TW700(TW70CA17)」をホリデーシーズン商戦向け特価の59.99ドル(約7200円)で販売するなど、もはやメーカー側も利益が出ているのか怪しいレベルの激安製品まで登場し、ユーザーにとっては非常にありがたい状況になっている。遠からず、日本でもこの波が訪れるのではないだろうか。

家電販売店のMicro Centerは、自社ブランドの7型Windowsタブレット「WinBook TW700(TW70CA17)」をホリデーシーズン商戦向け特価の59.99ドルで販売中だ

 さて、こうしたタブレットの低価格化を推し進める要因の1つになっているのは、間違いなくMicrosoftが設定した「9型以下のタブレットにおけるWindows OS無料化」の施策だ。これまでと違い、OSライセンス料がかからないため、Windowsという付加価値の高いソフトウェアを搭載したタブレットをメーカーは原価ギリギリに近い水準で販売できる。

 そのため、100ドル(税抜)という以前では信じられないような低価格で販売されるタブレットであっても、メーカー側はある程度の利益を確保できているようだ。

昨今の低価格Windowsタブレットブームの礎となっているMicrosoftの「ゼロ・ロイヤリティ」戦略

OSを一部無料化したMicrosoftの狙いは?

 ここで当然浮かんでくるのは、「OSを無料化してMicrosoftはどこで利益を得るのか?」という疑問だろう。これは2つの点で解消している。

 1つは「エンタープライズ分野」での利益だ。Microsoftはここ数年における利益の3分の2程度はエンタープライズから得ており、もともと利益率の低いコンシューマー分野でのOSライセンス販売に依存するよりは、これを無料でばらまいてプラットフォーム拡販のための施策に利用しようと考えている節がある。

 実際、Microsoftの過去数年の決算報告を見ると、「non-Pro」と呼ばれる一般コンシューマー向けのOSライセンス単価は目に見えて縮小を続けており、これは意図的に行われていると考えるのが自然だ。

 もう1つが「サービスサブスクリプションを絡めた施策」の充実だ。日本におけるコンシューマー向けOffice 365サービスの開始や、Office 365ユーザー向けのOneDrive容量無制限化など、「モバイルファースト、クラウドファースト」の戦略を推し進めている。つまりはWindowsを無料化しつつも、ユーザーを有料サービスへと誘導してロックインする方向を目指しつつあり、どちらかといえば「ビジネスモデル転換」の側面が強い。

 前述のターナー氏の講演は、このビジネスモデルの転換について触れている。この「ゼロ・ロイヤリティ」施策を発表しただけで対応製品が急増するなど、Androidに傾きつつあった低価格タブレットの世界が、Windowsを含めたより広いプラットフォームへと拡大しつつあるのだ。

 またOfficeや.NETのクロスプラットフォーム化にも触れており、クライアントOSはWindowsにはこだわらず、AndroidやiOS向けにもサービスを提供し、あくまでフロントエンドデバイスのカバー領域を広げることで、ユーザーを広くMicrosoftのサービスへと取り込んでいくことが重要だとしている。

 ターナー氏は「CAPEX(設備投資)からOPEX(運用コスト)へのユーザーの誘導」としているが、(ソフトウェアライセンス販売のような)買い切り資産ではなく、ユーザーからの定常的サービス料の徴収という、クラウドOS時代のビジネスモデルへのシフトを示唆した発言だろう。

これは日本マイクロソフトが示したスライドだが、現在のMicrosoftのコンシューマー向けWindows戦略を象徴している。Windowsはいわばまき餌であり、OfficeやBing、msnが主な収益源となる

 またターナー氏がビジネスモデルについて触れた重要な2つのトピックがある。1つは「ライバルとの協業」で、矢継ぎ早に発表されたクラウドサービスやソフトウェア企業との一連の提携は、Microsoft製品の利便性を高めることが狙いであって、依然として提携企業のサービスとは競合が続いている点を強調する。

 例えばIBMとの間では、NotesとExchangeで競合があるものの、DB2やWebSphereのAzureでの利用を可能にし、ユーザーの選択肢を増やす狙いがあるという。Dropboxなどでも同様で、明らかにOneDriveと競合するサービスではあるが、これもユーザーの利便性を重視して連携を行っている。

 もう1つは「OEMメーカーの市場を奪う戦略」として厳しい評価もある「Surfaceのビジネス」だ。ターナー氏はOEMメーカーとの競合を強く否定しており、あくまで「2in1というデバイスでのイノベーションを加速させること」が狙いにあるとしている。OSプラットフォームベンダーのハードウェア事業参入は、垂直統合を実現しているAppleを彷彿(ほうふつ)とさせるが、Microsoftはまた違う方向性を目指していると考えられる。

最近のMicrosoftがよくプレゼンテーションの前座で紹介する事業戦略を示すスライド図。「クラウドOS」とそれを利用するための「デバイスOS/ハードウェア」が存在し、この2つの組み合わせによって生み出されるユーザー体験を提供するのがMicrosoftの狙いだ
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年03月28日 更新
  1. Synology「BeeStation」は、“NASに興味があるけど未導入”な人に勧めたい 買い切り型で自分だけの4TBクラウドストレージを簡単に構築できる (2024年03月27日)
  2. 「ThinkPad」2024年モデルは何が変わった? 見どころをチェック! (2024年03月26日)
  3. ミリ波レーダーで高度な検知を実現する「スマート人感センサーFP2」を試す 室内の転倒検出や睡眠モニターも実現 (2024年03月28日)
  4. ダイソーで330円の「手になじむワイヤレスマウス」を試す 名前通りの持ちやすさは“お値段以上”だが難点も (2024年03月27日)
  5. ダイソーで550円で売っている「充電式ワイヤレスマウス」が意外と優秀 平たいボディーは携帯性抜群! (2024年03月25日)
  6. 次期永続ライセンス版の「Microsoft Office 2024」が2024年後半提供開始/macOS Sonoma 14.4のアップグレードでJavaがクラッシュ (2024年03月24日)
  7. いろいろ使えるFireタブレットが最大7000円オフ! Echo Budsは半額以下で買える! (2024年03月26日)
  8. 2025年までに「AI PC」を1億台普及させる――Intelが普及に向けた開発者支援をアップデート ASUS NUC 14 Proベースの「開発者キット」を用意 (2024年03月27日)
  9. 15.5万円の有機ELディスプレイ「MPG 271QRX QD-OLED」に指名買い続出 (2024年03月25日)
  10. サンワ、Windows Helloに対応したUSB Type-C指紋認証センサー (2024年03月27日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー