新「iPad Pro」を試して判明した驚異の実力 もはやパソコン超えか本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/5 ページ)

» 2018年11月06日 08時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

良好なベンチマークテスト結果以上の体験

 実際のパフォーマンスをベンチマークテストで確かめていく。まずは、異なるプラットフォーム間、クロス環境での性能を比較するため、Geekbench 4を動かしてみた。シングルコアのスコアは約5000。これはパソコンでいうと、2.1GHz動作(TurboBoost時4.1GHz)のIntel Core i7-8650Uを搭載する「Surface Laptop 2」のスコアに近い。さらにマルチコアのスコアは約1万8000と、こちらはCore i7-8650Uを超えている。

iPad Pro Geekbench 4のスコア(シングルコア、マルチコア)

 ちなみに10.5型iPad Pro(A10X Fusion 2.34GHz)の場合、シングルコアのスコアは約3900、マルチコアのスコアは約9500だった。シングルコアで35%、マルチコアでは90%の性能改善というAppleの話ともほぼ符合する数字であり、「2017年に販売されたモバイルパソコンの92%よりも高速」というAppleの主張にもうなずける。

 GPUの演算性能を示すMetalスコアは10.5型iPad Proが30400だったが、新iPad Proは42000を超えている。このスコアは15.4型MacBook Proの2017年モデルが搭載するAMD Radeon Pro 560(約42200)とほぼ同じであり、13型MacBook Proが搭載するIntel Iris Graphics 650(約30000)を超えている。

iPad Pro Geekbench 4のスコア(Metalスコア)

 このように書けば、その潜在的なパワーが見えてくるだろうか。

 その上で、A12X Bionicには毎秒5兆回の演算を行えるニューラルネットワーク処理専用プロセッサ「Neural Engine」も内蔵されており、例えば写真の顔認識による分類などエッジAI的な処理は、パソコン上のアプリよりもずっと高速かつ高い電力効率で実行可能だ。さらに、後述するようにiPad Proらしさを引き出せるアプリに、Neural Engineを生かす「Core ML」を用いたものも登場しつつある。

 このように(クロス環境でのベンチマークテストのため、必ずしもスコア=体験の差ではないが)処理能力はノートパソコンでもかなり上位のものに匹敵し、モバイル専用機としては異例の高性能といえる。

 しかし、その成果はベンチマークテストの結果だけで得られるものではない。

 試しに、3000万超の画素を誇るフルサイズミラーレス一眼「EOS R」のRAWファイル10枚をLightroom CCで現像する処理を行ってみたが、その結果は29秒。1秒当たり3秒を切るスピードだ。ちなみに、同時発表された新しいMacBook Airでの現像処理は36秒だった。

 もともと、iPad用のLightroom CCは、指先やApple Pencilで覆い焼きのマスクを作れるなど、パソコンよりも作業しやすかった。しかし、今や現像パフォーマンスでもモバイル環境ではiPad Proがパソコンを上回る時代になってきたのだ。

パソコンにはない「Neural Engine」の活用にも期待

 CPUとGPUのパフォーマンスだけではない。前述のように、CoreMLを用いた本格的な写真アプリの事例も出始めようとしている。

 年末リリースの予定で開発が進んでいる「Pixelmator Photo」は、RAW現像時のパラメータセットを機械学習モデルで自動セットする機能を持つ。発表会時のハンズオンでは「ML Fix」ボタンをタップするだけで、ほとんど瞬間的に、RAW現像パラメータが適切に設定される様子を見ることができた。

 例えば夕景での逆光時撮影で、被写体の人物が暗く写っている場合などにも、暗部のトーンマッピングが最適化され、背景は夕景らしくオレンジ色に染まる。もちろん、RAW現像パラメータのオファーだから、それをベースに自在に設定すれば、誰でも簡単に「それらしい現像」を行える。

 Adobe Systemsの一連のアプリもそうだが、こうしたiOS向けのフォトグラファー向けアプリはGPUの応用を積極的に行っているため、Apple Pencilを用いて行うリアルタイムのエフェクトや調整なども含め、iPad Proの上でほぼリアルタイムに動く。

 USB-Cで直接カメラへと接続可能になったことも合わせ、最新のレンズ交換式カメラと組み合わせると、高速にRAWファイルを転送し、手早く現像設定を行い、あっという間に現像ファイルを書き出し、さらには通信機能でJPEGにした写真をシェアするところまで持って行ける。

 前述のように、iPad ProのディスプレイはMacBook Proと同等以上の品質を持っていることもあり、ワークフローを完全にiPad Pro内で完結できるのだ。これはカメラを使って仕事をする機会が多い、われわれのような仕事でも非常に魅力的である。

 プロのフォトグラファーではない私たちの場合、RAWではなくJPEGで撮影することが多かったが、iPad Proを用いたワークフローならば、むしろ失敗写真を減らせるという意味において、積極的にRAWで撮影したいと思うだろう。

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