「PDC」の失敗から“世界標準”の重要性を学んだ日本――Ericsson エワルドソン氏:Ericsson Business Innovation Forum 2009(2/2 ページ)
WiMAXやLTEといった新技術や、iPhoneやAndroidケータイなどの革新的な端末への注目が集まっている。しかし業界全体では、市場からの撤退や統合など、再編の動きも絶えない。次世代通信を巡る市場環境について、業界最大のEricssonに話を聞いた。
ITmedia モバイルWiMAX分野ではノートPCへの組み込みが進んでいます。御社の組み込み戦略について教えてください。
エワルドソン氏 Ericssonは、2020年に500億台のモバイル端末がワイヤレスでネットに接続されると考えています。この巨大市場を目指すためにも、組み込みモジュール戦略はわれわれの非常に重要な課題です。
数年前にPCに搭載できるモジュールの提供を開始し、現在、HSPA/EDGE/GSMのトリプルモードに対応した製品を提供しています。同時に、“Mobile Broadband”イニシアティブも進めています。われわれのモジュールを搭載したPCにロゴを貼ってプロモーションするものです。
ITmedia PC以外に、どのような端末にモジュールが入ってくるのでしょうか?
エワルドソン氏 ブロードバンドに接続する必要があるもの、接続するとメリットがあるものすべてです。特に、電気や水道などのテレメトリング分野に高い関心が集まっています。駐車場のパーキングメーターも考えられますね。
モバイルブロードバンドは、LTE/HSPAが主役になります。M2M向けのLTEモジュールも時期をみて投入します。
ITmedia 最新の基地局「Capsule Site」を発表するなど、環境への取り組みも重視しています。
エワルドソン氏 モバイルブロードバンドの普及に向けて、都市向けの基地局を設計しました。「Tower Tube」を手がけたトーマス・サンデール(Thomas Sandell)氏がデザインしたもので、24時間〜48時間という短時間で設置できるのが特徴です。ボディに複合素材を利用し、ユニークな冷却メカニズムを持たせるなど、環境にも配慮した基地局です。
ITmedia 日本市場をどう見ていますか?
エワルドソン氏 日本市場は新しい技術のパイオニア的存在です。世界に先駆けてNTTドコモがサービスを提供したW-CDMA(FOMA)は、日本政府とドコモの強いプッシュがあったから成功しました。現在、W-CDMAの普及率は日本が世界最高レベルです。
LTEの開発でも、NTTドコモが重要な役割を果たしました。4Gにスムーズかつ早期に移行するものとしてNTTドコモが3.9Gを提案し、これがLTEとなりました。ほかのオペレーターもこれを支持しています。
これは独自仕様だったPDC(ムーバ)失敗の成果でしょう。日本はPDC失敗を受け、早い時期に世界標準の重要性を学びました。EricssonはNTTドコモのLTEベンダー候補として選ばれており、現在プロジェクトを進めています。
日本市場のもう1つの特徴が、CDMA2000の存在です。日本ではこれまでW-CDMAを採用するキャリア(ドコモ、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル)と、CDMA2000を採用したキャリア(KDDI)が共存してきました。KDDIはLTEへの移行を表明しています。米国では、(CDMA2000を採用していた)VerizonがLTEへの移行を発表しており、CDMA2000の標準化を行ってきた3GPP2のグループがLTE採用に動いています。3GPP2は当初、UMBを進めていましたが、その仕様は実質的にLTEと融合されることになりました。
同時に、中国が開発した3G標準であるTD-SCDMAもLTEへの移行を決定しました。これはTDD方式を採用するのでTDD LTEと呼ばれます。
このようにLTEには、いくつかの標準規格が統合されていくでしょう。
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