日本でも普及するか?「洋上風力発電」キーワード解説

日本で風力発電と言えば、地上に大きな発電用風車を建てるものというイメージが定着しているが、ヨーロッパでは海に発電用風車を建てる「洋上風力発電」が大きな実績を残している。日本でも少しずつ実験が始まっているが、ヨーロッパと同じように大きな実績を残せるのだろうか?

» 2012年11月16日 13時00分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 洋上風力発電の利点としては、景観や騒音の問題で反対運動が起こりにくいという点が挙げられる。人間が生活する地上から数km離れた海上に建てるため、風車の騒音が地上の住人に聞こえることはなく、景観を壊すという声が挙がる可能性は極めて低い。

 地上に風力発電機を建てるために風況を調査し、発電に向く土地を見付けたとしても、その土地が山がちで建設が難しいということもある。道路や送電線などが邪魔をして建設をあきらめざるを得ないということもある。

 洋上風力発電なら、地上よりも比較的自由に風車を建てるところを選べる。海底に基礎を置けるところなら、基本的にはどこにでも建てられる。急に水深が深くなる場所では、基礎を水上に浮かせる「浮体式洋上風力発電」という手法も使える。

 洋上風力発電が大きな注目を集めている最大の理由としては、ヨーロッパで大規模な洋上風力発電所がいくつも稼働し、実績を残しているという事実が挙げられる。ヨーロッパの沖合は地上に比べて風況が良く、風の乱れがほとんどない。地上に比べて洋上の方が風力発電の実力を発揮できる環境が揃っているということだ。

 日本にもヨーロッパでの評判が伝わり、洋上風力発電所の建設計画が明らかになったほか、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)と東京電力が試験用の発電機を建設するなど、実用化へ少しずつ進み始めている。

 しかし、実験用風車を建設したNEDOによると、「洋上は地上よりも風況が良い」というヨーロッパでの評判がそのまま日本に当てはまるとは限らない。地上の風況データはNEDOなどが保有しており、Webページで確認できるが、日本周辺海域の風況に関するデータはまったくないと言ってもいい状態だ。NEDOが試験用の風車を建てたのは、日本周辺海域の風況を少しずつ調べるという目的もあってのことだ。

 たとえ洋上の風況が良いという調査結果が出たとしても、もう1つ大きな課題が残っている。巨大な風車を洋上に建てる手間と建設コストだ。発電した電気を地上に送り届ける海底ケーブルの敷設費用もかなりのものになる。先に挙げた浮体式洋上風力発電では、海上に浮く基礎を安定させるのが難しいという課題が残っている。

 国土が狭い日本では、風力発電に適した地上にはすでに発電用風車が建っていることが多い。土地が残っていたとしても、騒音などの問題で事実上建設不可能となっているところもある。風力発電を本格的に普及させるには、洋上風力発電に期待するしかないが、洋上の風況と、建造コストという問題が解決するまでは急速に普及が進むことはないだろう。

関連記事:これを読めば「洋上風力発電」がさらによく分かる!

日本でも洋上風力発電は実力を発揮できるか、実証研究が始まる

千葉県銚子市沖に日本最大の洋上風力発電設備が完成した。同じ規模の設備が今年度中に福岡県北九州市沖にも完成する予定だ。ヨーロッパではかなりの実績を残しているが、日本で実用化までこぎつけるには、まだ調査しなければならないことが多いようだ。


風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも

太陽光発電に続いて風力発電の取り組みが活発になってきた。小型の風力発電は買取価格が55円/kWhで最高額に設定されている。建設費が高いためだが、適した場所を選べば企業や家庭でも設置できる。大型の風車を使った大規模な風力発電所も東北や北海道で増加中だ。


洋上風力発電を7社が事業化へ、10年後に数百MWの発電所を建設

東芝や日本気象協会など7社が共同で、洋上風力発電の事業化を大規模に展開するプロジェクトに乗り出した。現時点で建設しやすい「着床式」に加えて、今後の拡大が期待される「浮体式」の開発と実験も進める。2012年度中に有力地域を選定して、風力などの観測を開始する予定だ。


世界最大級250MWの洋上風力発電所、茨城・鹿島港沖に50基の風車を建設

まだ日本では少ない洋上風力発電所の大規模な建設計画が決まった。茨城県が鹿島港沖で進めるプロジェクトで、50基の大型風車を使って250MWの発電を可能にする。5年後の2017年から順次運転を開始する予定で、フル稼働すれば茨城県内の16%の家庭で使用する電力を供給できる。


太平洋岸に風力発電所の集積地、洋上にも続々と建設中

茨城県の太平洋岸に大規模な風力発電所が増加中だ。10〜20MW級の発電所だけでも5か所で稼働しており、今後の拡大が期待される洋上の風力発電も本格的に始まった。一方で内陸部ではバイオマス発電が活発に進み、その発電量は全国で第2位の規模に成長している。


国内で最大規模の洋上風力発電所、2016年春に稼働開始

国内でも数カ所で洋上風力発電所の計画が持ち上がっているが、どの計画も稼働開始まで長い時間がかかることになっている。前田建設工業は2016年春に稼働開始することを目指して、大規模な洋上風力発電所を建設する。


風力発電の成否を左右する「風況」

風力発電機はどこに設置しても良いというものではない。ある程度の風が吹くと期待できるところに設置しないと、ほとんど発電しない。年間平均風速など、発電量を左右する要素は色々ある。これらの要素をまとめて「風況」と呼ぶ。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.