国のエネルギー戦略が揺れ動くなか、大阪府と大阪市は先行して2030年に向けたエネルギー戦略を策定する。関西電力による原子力発電を中心とした集中型の電力供給システムから、再生可能エネルギーの拡大と省エネルギーの推進による分散型へと移行を図る方針だ。
大阪府と大阪市は共同で2012年2月から専門家による「大阪府市エネルギー戦略会議」を設置して、約1年間で24回におよぶ会合を重ねてきた。その検討結果を「大阪府市エネルギー戦略の提言」として集約中で、先ごろ素案を公表した。
原子力発電がもたらす危険性を細かく論じながら、原発依存からの脱却を図り、再生可能エネルギーの拡大と省エネルギーの推進による地域分散型のエネルギー供給体制を目指すことを戦略の柱に据えている。
特に脱・原発依存については明確な考えを示した。「原発については倫理的に大きな問題を抱える上に、経済的にも割が合わないと考える。このような電源を中長期的に維持し続けることは、社会にとっても経済にとっても大きな負担となり、ユーザー企業だけでなく電力会社にとっても得策ではないはずだ。2030年までにすべての原発を段階的に廃止していく“Phase-out”を提案する」。大阪市は関西電力の筆頭株主でもあり、この提言の内容は重みを持つ。
政府も国民の意向を受けて2030年に原発をゼロにする戦略を掲げながらも、その後の議論が宙に浮いたまま、安倍・新政権は今後3年以内に改めてエネルギー戦略を策定する方針である。大阪府市は政府に先行して脱・原発依存を提言することで、国のエネルギー戦略にも反映させたい考えだ。
大阪府市のエネルギー戦略の前提として、今後の電力供給は再生可能エネルギーを含む自家発電などによって増加する一方、需要については省エネ対策の広がりや利用者側の抑制機能(需給調整契約、デマンドレスポンスなど)によって減少していく、という想定がある(図1)。
実際に2012年の夏は当初の想定よりも供給力が450万kWも大幅に増加したのに対して、最大需要は305万kWも減少した(図2)。供給力の増加の中には大飯発電所による原子力発電237万kWが含まれている。原子力発電を除くと需給率はピーク時に97.4%に達し、電力不足が懸念される予備率3%を少しだけ下回る水準だった。
こうした状況を同会議では次のように分析している。「2基の原発が稼働したことにより安定的な供給ができたという意見もあるが、火力・水力・他社融通に加えて、揚水発電を最大限に活用すれば、2012年夏の電力は十分に足りたと考えられる」。今後さらに需要の減少と供給力の増加が期待できるため、原子力発電がなくても電力供給の安定化は可能とみている。
大阪府市はエネルギー戦略の提言内容を3月までに確定して発表する見通しだ。政府や他の自治体、関西電力をはじめとする電力会社の反応が注目される。
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