電気料金の単価を1円上げれば、柏崎刈羽を再稼働させる必要なし法制度・規制

東京電力が推し進める柏崎刈羽原子力発電所の再稼働をめぐって、地元の新潟県で反発する動きが強まっている。単純に燃料費の問題を考えると、電気料金の単価を約1円高くするだけで再稼働の必要はなくなる。東京電力の利用者が料金の増加を許容すれば、新潟県民の不安を解消できる。

» 2013年07月10日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 電力会社が原子力発電所の再稼働を急ぐ最大の理由は、当面の収支を改善することにある。表面的には原子力発電の燃料費は火力発電よりも格段に低く計上できるためである。東京電力の場合には、原子力発電所の停止に伴う火力発電の増加によって、年間の燃料費が約4500億円も増加すると予想している。その分を電気料金に上乗せして収支を成り立たせようというわけだ。

 東京電力が2012年9月に実施した電気料金の値上げ率は、家庭向けで8.5%、企業向けで14.9%だった。ただし、この値上げ率で東京電力の収支が見合うためには重要な条件がある。柏崎刈羽原子力発電所を再稼働させることだ。7基のうち4基は2013年度中に、2基は2014年度中に運転を開始する必要がある。

 原子力発電による電力供給がゼロだった2012年度と比べて、2013年度の燃料費は約3200億円、2014年度は約5900億円も減る計画だ(図1)。2012〜2014年度の3年間を平均すると、他社から購入する電力を含めて、2012年度よりも3049億円の費用が少なくて済む(3兆1713億円が2兆8664億円へ)。

図1 東京電力の2012〜2014年度の燃料費の計画値(2012年7月の値上げ認可時点)。出典:東京電力

 もし柏崎刈羽原子力発電所を計画通りに再稼働できないと、年間で3049億円の費用が増えてしまう。だからこそ東京電力は再稼働を急いでいるわけだが、その費用の増加分を東京電力の利用者が負担すれば、再稼働させずに済むことになる。では、どのくらいの負担になるのか。

 東京電力が想定した2012〜2014年度の販売電力量は2773億kWhである。電力1kWhあたり1.10円を値上げすると、年間3049億円の費用の増加をカバーできる。2012年9月に値上げした時には、5930億円の収入不足を補うために、1kWhあたり2.14円を引き上げた(図2)。これをもとに計算すると、家庭向けで4.4%、企業向けで7.6%の再値上げが必要になる。

図2 東京電力の2012〜2014年度の収支計画(2012年7月の値上げ認可時点)。出典:東京電力

 決して小さな負担ではないものの、新潟県や周辺地域が放射能汚染のリスクから解放されるためと考えれば、許容範囲ではないだろうか。新潟県は東京電力ではなく東北電力の管内で、柏崎刈羽原子力発電所の電力は一部だけが東北電力に供給される。福島県と似たような状況にある。

 実は東京電力の収支計画を見ると、通常の他社からの購入電力料のほかに、年間で4000億円以上の費用が想定されている。詳細は不明だが、東北電力と日本原子力発電の2社に対して支払う原子力発電の購入電力料が年間965億円もある(図3)。この費用は2社から購入する電力量がゼロであるにもかかわらず発生する。

 一方で東京電力は柏崎刈羽の1号機を2013年度中に再稼働させることを前提に、東北電力に対して2012〜2014年度に978億円(年平均326億円)の電力を販売することも見込んでいる。こうしたサプライチェーンによって、原子力発電のコストが表面的な燃料費とは別に多額に使われている。

図3 東京電力の原子力発電による購入・販売電力料。前回は2008年度の実績、今回は2012〜2014年度の計画値(2012年7月の値上げ認可時点)。出典:東京電力

 ほかにも原子力発電所の安全対策のために、改良費として年間に1050億円が上積みされた。単純に火力発電の増加によって電力会社の費用が増えたわけではないことを、利用者は認識しておくべきである。原子力発電所が再稼働することによって電気料金の値上げを抑えられる保証はない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.