太平洋沿岸で風力発電を一気に加速、2020年の再エネ率を12%以上にエネルギー列島2013年版(22)静岡

静岡県は2020年度に再生可能エネルギーの比率を10%以上に高める計画を推進中で、風力発電が予想以上に拡大して目標値を12.6%へ引き上げた。太平洋の沿岸部では洋上を含めて大規模な風力発電所とメガソーラーの建設計画が相次ぎ、内陸部では小水力とバイオマス発電が広がる。

» 2013年08月27日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 太陽光や風力から地熱やバイオマスまで、あらゆる再生可能エネルギーの資源がそろっている都道府県は全国にわずかしかない。そのうちのひとつが静岡県だ。東西に広い太平洋側の沿岸地域は風力と太陽光に恵まれている。一方で富士山を背にした内陸部には大きな川が何本も流れていて、森林があり、さらに温泉も豊富にある。

 これだけの資源を抱える静岡県が2011年3月に「ふじのくに新エネルギー等導入倍増プラン」を策定して、災害に強い自立分散型のエネルギー供給体制の構築を進めてきた。太陽光と風力を中心に再生可能エネルギーを拡大して、県内のエネルギー消費量の10%以上を供給できるようにする計画だ。

 その結果、太陽光と風力が見込みを上回って増え続け、早くも目標値を上方修正することになった。2011年度中に目標を超えた風力は1.4倍に、順調に拡大する太陽光は3倍に目標値を引き上げた。再生可能エネルギーの比率は2020年度に12.6%まで上昇する(図1)。

図1 2020年度の再生可能エネルギー導入目標(2013年3月に目標値を変更)。出典:静岡県企画広報部

 静岡県内で特に風力発電所が増えている地域は、太平洋に細く突き出た御前崎(おまえざき)である。年間の平均風速が毎秒6メートルを超える風況の良さを生かして、大規模な風力発電所が相次いで動き始めている。

 最も新しく運転を開始したのは中部電力の「御前崎風力発電所」で、11基の大型風車が稼働中だ(図2)。合計22MW(メガワット)の発電能力により、年間の発電量は1万7000世帯分に電力を供給できる規模になる。発電所の場所は遠州灘に面した2カ所に分かれていて、ちょうど中間には運転停止中の「浜岡原子力発電所」がある。

図2 「御前崎風力発電所(2期)」の全景と所在地。出典:中部電力

 御前崎風力発電所のすぐ近くでは、新たに洋上風力発電所を建設するプロジェクトが始まろうとしている。大型の港湾設備を擁する御前崎港の防波堤に沿って、最大で40.5MWの風力発電設備を設置する構想だ。静岡県が港湾内に「再生可能エネルギーゾーン」を設けて、洋上風力発電と波力発電の導入を計画している(図3)。

 このうち洋上風力発電は2013年11月中に事業者を誘致して、2015年度には建設に着手する見込みだ。順調に行けば2017年度にも運転を開始することができて、国内で最大級の洋上風力発電所になる。

図3 御前崎港で計画中の再生可能エネルギーゾーン(画像をクリックすると拡大)。出典:静岡県交通基盤部

 御前崎の西側にある掛川市の太平洋岸でも、風力発電所の建設計画が進んでいる(図4)。海岸沿いに10基の大型風車を設置して、20MWの発電能力を発揮する。2016年の運転開始を目指している。同じ掛川市内では「遠州掛川風力発電所」が2011年から20MWの規模で稼働中で、御前崎と同様に風力発電所の集積地になりつつある。

図4 「掛川風力発電事業」の実施予定地域。出典:日本風力開発

 続々と大規模な風力発電所が運転を開始したことで、静岡県の風力発電の導入量は全国で第7位まで上昇した(図5)。さらに県の東部にある伊豆半島の山間部でも、東京電力グループが複数の開発プロジェクトを進めているところだ。

図5 静岡県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 風力と並んで伸びが著しい太陽光発電の導入量は、すでに愛知県と埼玉県に次ぐ全国第3位の規模がある。最近では静岡市にある清水港でメガソーラーが広がってきた。稼働中の設備では物流大手の鈴与グループが4カ所の倉庫の屋根に太陽光パネルを設置して「清水港メガソーラー」を展開している(図6)。2013年2月に運転を開始して、4カ所を合わせると1.3MWの発電能力を発揮することができる。

 清水港から見て目と鼻の先には、富士山の世界遺産登録で話題になった「三保の松原」がある。この名所に隣接する土地に中部電力が「メガソーラーしみず」を建設する。発電能力は8MWに達する規模で、2015年2月に稼働する予定だ。富士山を見晴らせる景勝の地に大規模なメガソーラーがふさわしいかは意見の分かれるところだが、日照時間が長くて太陽光発電に適した場所であることは間違いない。

図6 「清水港メガソーラー」の設置状況。出典:鈴与商事

 沿岸部で風力と太陽光が拡大する一方、内陸部では小水力発電の取り組みが着々と進んでいる。静岡県の中央を流れる大井川の流域が特に活発だ。新しい小水力発電所では2013年7月から稼働した「伊太(いた)発電所」がある。

 南アルプスを水源に持つ大井川から周辺の地域に向けて何本もの農業用水路が延びている。その水流を活用した発電設備で、わずか7メートルの落差を使って893kWの電力を作ることができる(図7)。水量が豊富なために、小水力とはいえ1MWに近い発電能力を発揮する。年間の発電量は一般家庭で1200世帯分に相当する規模になる。

図7 「伊太発電所」の小水力発電設備。出典:農林水産省関東農政局

 山からの恵みはバイオマス発電にも生かされる。静岡県は古くから製紙業や製材業が盛んで、木質バイオマスの原料になる端材や木くずが大量に出る。製紙業大手の王子グループは富士市にある主力工場に、36MWのバイオマス発電設備を導入する計画だ。2015年3月に稼働する予定で、年間の発電量は1億kWhを超える。実に3万世帯分に相当する電力を供給できるバイオマス発電所になる。

 小水力とバイオマスは風力や太陽光と比べて天候の影響が小さく、安定した電力供給源になる。各種の再生可能エネルギーを併用できることは静岡県の大きな強みになっていく。

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −北陸・中部編−」をダウンロード

2015年版(22)静岡:「富士山と共存できる発電所を増やす、風力や地熱で観光と環境教育」

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