太陽光発電で全国のトップを快走、加速するメガソーラー開発に風力や小水力もエネルギー列島2013年版(23)愛知

日射量が豊富な愛知県は住宅用の太陽光発電システムで圧倒的な導入量を誇り、最近では大規模なメガソーラーの開発計画が相次いで始まっている。拡大の勢いが止まらない太陽光発電に続いて、沿岸部では風力発電、山間部では小水力発電の取り組みも活発になってきた。

» 2013年09月03日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 愛知県は長年にわたって太陽光発電の導入量で全国トップの座をキープしている。日射量が多い地の利を生かして、住宅用を中心に早くから太陽光発電の拡大に取り組んできた。国が運営する補助金の申請件数を見ても他県を大きく引き離している(図1)。

図1 住宅用太陽光発電システムの補助金申請件数。太陽光発電普及拡大センターの集計による

 さらに固定価格買取制度が始まった2012年7月からは、太平洋沿岸の工業地帯でメガソーラーの建設計画が相次いでいる。特に集中している場所は、県の南部から西へ細長く延びる渥美半島の田原市である。国内で最大の規模になる81MW(メガワット)と50MWのメガソーラーが三河湾に面した同じ地区で建設中だ。

 81MWのプロジェクトは愛知県が所有する2カ所の産業用地に分散する「たはらソーラー第一・第二発電所」である(図2)。2013年8月に工事を始めて、2015年3月までに運転を開始する計画だ。年間の発電量は9000万kWhを超える見込みで、一般家庭の電力使用量に換算して約2万5000世帯分に相当する。完成した時点で日本最大のメガソーラーになる。

図2 「たはらソーラー第一・第二発電所」の建設予定地。出典:愛知県企業庁

 この第一発電所に隣接する区域では、50MWのメガソーラーの建設が一足早く進んでいる。三井化学が所有する80万平方メートルの土地を活用した「たはらソーラー・ウインド共同事業」で、2014年12月から発電を開始する予定だ。

 注目すべきは敷地の海側に沿って3基の大型風車を併設する(図3)。太陽光発電の50MWに加えて風力発電で6MWの電力を作り出すことができる。両方を合わせた発電量は年間で6750万kWhに達して、約1万9000世帯分の電力使用量に匹敵する規模になる。

図3 「たはらソーラー・ウインド共同事業」の完成イメージ。出典:三井化学ほか

 田原市の世帯数は約2万2000世帯である。2つのメガソーラーと風力発電を合わせて、市の世帯数の2倍(4万4000世帯)に相当する電力を供給できることになる。

 ほかにも市内で進行中のプロジェクトがある。たはらソーラー第二発電所の隣では、もうひとつ6MWの風力発電所の建設が始まっている。東京製鉄の田原工場の海側に3基の大型風車を設置して、2014年6月に運転を開始する予定だ。この発電所を建設・運営するのは関西電力グループで、発電した電力は全量を中部電力に売電する。電力会社間で再生可能エネルギーを供給する初めてのケースになる。

 田原市を中心に太陽光発電と風力発電が急速に拡大中だが、愛知県の再生可能エネルギーでは今のところ小水力発電のほうが供給量が多い(図4)。木曽川をはじめ大きな河川が県内を流れていて、大規模から小規模まで各種の水力発電設備が稼働している。

図4 愛知県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 最近の小水力発電の取り組みのひとつに、美しい棚田で有名な「四谷千枚田(よつやせんまいだ)」で2013年6月から始まった事例がある。山から湧き出る水を農業用水として利用しながら発電も可能にした。発電能力はわずか1kWながら、近隣の公衆トイレの照明と浄化槽の電力源になっている(図5)。

図5 「四谷千枚田」の農業用水を活用した小水力発電設備。出典:愛知県農林水産部

 農業用水を活用した小水力発電では、もっと規模の大きな計画もある。農業用水を安定して供給するために造られたダムの水流を使って発電する。愛知県の中部にある「羽布(はぶ)ダム」は1962年から50年以上にわたって国営の農業用ダムとして機能してきた。このダムから放流する大量の水を発電設備に取り込む(図6)。

 50メートルの水流の落差を生かして7MWの発電が可能になる。年間の発電量は3400万kWhを見込んでいて、一般家庭で約1万世帯分の電力を供給することができる。2013年度中に工事を開始して、3年後の2016年度中に運転を開始する予定だ。

図6 「羽布ダム」に設置する小水力発電所。出典:農林水産省東海農政局

 このほかに愛知県で未開拓の分野がバイオマスである。将来に向けたバイオマス発電の先進的なプロジェクトが、田原市の対岸にある碧南(へきなん)市で2012年4月から始まった。県が運営する「衣浦(きぬうら)東部浄化センター」に集まる下水の汚泥を炭化して、それを近くにある中部電力の「碧南火力発電所」で石炭と混焼して発電に利用する(図7)。

 1日あたり100トンにのぼる下水の汚泥を炭化することによって、年間で460万kWhに相当する電力をバイオマスで作り出すことができる。碧南火力発電所では汚泥のほかに木質バイオマスも混焼していて、2種類のバイオマスを燃料に使ってCO2排出量の削減に取り組んでいる。

図7 「衣浦東部浄化センター」(左上)と「碧南火力発電所」(右上)のバイオマス発電設備。出典:中部電力

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2014年版(23)愛知:「太陽光の先進県がバイオマスで全国1位、木質から廃棄物まで燃料に」

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