火山地帯で増え続ける地熱発電、別府湾岸には巨大メガソーラー群エネルギー列島2013年版(44)大分

国内で最も多くの再生可能エネルギーを導入している大分県では、地熱発電を中心に小水力からバイオマスまで現在でも数多くのプロジェクトが進んでいる。新たな地熱発電の開発が温泉地で始まるのと並行して、沿岸部の工業地帯には巨大なメガソーラーが続々と誕生する。

» 2014年02月04日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 自然環境を利用する再生可能エネルギーを発展させるためには、地域の特性に合わせた取り組みが何よりも重要だ。その点で大分県ほど成功している例はほかにない。阿蘇山に近い中西部の火山地帯で地熱発電所が数多く稼働する一方、周辺の森林地帯には小水力と木質バイオマスの発電設備が広がる(図1)。さらに東部の沿岸地域では太陽光発電設備の建設が活発に進んでいる。

図1 大分県内の主な再生可能エネルギー発電設備(上)と地熱発電所(下)。出典:大分県商工労働部

 地熱発電所が集まる九重町(ここのえまち)には、大規模から小規模まで6つの発電所がある。発電能力を合計すると150MW(メガワット)を超える。年間の発電量は10億kWhに達して、一般家庭で30万世帯分の電力を供給できる規模になる。大分県全体の世帯数は48万であり、約3分の2の家庭をカバーできる電力量に匹敵する。

 今後も地熱発電の拡大は続いていく。九州電力グループが2015年3月の運転開始を目指して、5MWの地熱発電所の建設計画を推進中だ。年間の発電量は3000万kWhを見込んでいて、これだけで9000世帯分の電力を供給することができる。建設予定地は九重町の「菅原地区」で、一帯には豊富な温泉が湧き出る(図2)。

図2 地熱発電所を建設する九重町の「菅原地区」。出典:九州電力

 この計画と並行して、近隣の地域でも開発プロジェクトが始まる。九重町の東側にある「平治岳(ひいじだけ)」の北部が実施対象である(図3)。一帯は国の調査によって地熱資源の存在が知られていたが、国立公園の特別地域に入っているために開発が規制されていた。2012年に環境省が規制を緩和したことで掘削調査が可能になった。

 九州電力が国の助成金を受けて2013年度中に地表調査を実施して、その後に本格的な掘削調査に入る。運転を開始できるまでの期間は発電規模にもよるが、通常は7〜10年程度を要する。2020年代の初めには、新しい地熱発電所が完成して大量の電力を供給できる見込みである。

図3 地熱発電の開発調査を進める「平治岳」。出典:九州電力

 その一方では身近にある温泉水から電力を作り出す試みも進んできた。温泉地として有名な別府市を中心に、大分県内には温泉井戸が数多く分布している。井戸から噴出する温泉水を取り込んで、50kW程度の小規模な地熱発電を可能にするプロジェクトがある。「湯けむり発電」とも呼ばれ、別府市内で実証機が稼働中だ。

 温泉水を利用した発電設備としては、100度以下の熱水に適用できるバイナリー発電方式を採用するのが一般的である。これに対して湯けむり発電は100〜150度の高温の熱水を利用して、より簡便な仕組みで低コストに発電することができる(図4)。発電設備を導入してから3年程度で投資回収が可能になり、大分県も支援して地元の温泉旅館などに広める計画を推進する。

図4 「湯けむり発電」の仕組みと実証機。出典:ターボブレード

 湯けむり発電では既存の温泉井戸から湧き出る熱水で発電して、その後に温泉設備に給湯する方式をとる。このため貴重な温泉資源を枯渇させてしまう心配がなく、温泉事業者の理解を得やすい。現在のところ別府市内だけで50カ所程度に導入できる見通しが立っている。

 地熱発電で日本一の発電量を拡大しながら、太陽光発電の導入量も急速に増えていく。別府湾岸に広がる「大分臨海工業地帯」は国内有数の石油化学コンビナートだが、産業の構造転換によって遊休地が数多く残ってしまった。湾岸で平坦な埋立地の利点を生かして、新たに太陽光発電の集積地に生まれ変わろうとしている(図5)。

図5 「大分臨海工業地帯」のメガソーラー計画(画像をクリックすると拡大)。出典:大分県商工労働部

 すでに巨大なメガソーラーの建設プロジェクトが3カ所で進んでいて、そのうち2カ所は運転を開始した。最初に稼働したのは「日産グリーンエナジーファームイン大分」で、プラントメーカーの日揮が日産自動車の所有地を借りて建設・運営する。

 別府湾に面した35万平方メートルの広大な敷地に、11万枚の太陽光パネルを設置した(図6)。2013年5月に運転を開始して、発電能力は26.5MWに達する。年間に9000世帯分の電力を供給できる見込みだ。

図6 「日産グリーンエナジーファームイン大分」に設置した太陽光パネル。出典:シャープ

 続いて三井造船と三井不動産が同じ工業地帯の一角に17MWのメガソーラーを2013年12月に稼働させたほか、丸紅が国内で最大規模の81.5MWの設備を2014年4月に完成させる予定である。3カ所を合計すると125MWの発電能力になり、4万世帯以上に電力を供給できる太陽光発電の一大拠点になる。

 大分県の再生可能エネルギーの導入量は地熱発電が圧倒的に多く、地熱利用の設備と合わせれば全体の7割を占めている(図7)。太陽光発電の規模は10分の1にも満たないが、これから一気に増えていくことは確実だ。

 県内には森林資源も豊富にあり、木質バイオマスを利用した発電プロジェクトが各地に広がり始めた。再生可能エネルギーで国内ナンバー1の地位は、当分のあいだ揺らぐことはないだろう。

図7 大分県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −九州・沖縄編 Part2−」をダウンロード

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