かんがい用ダムの放流で900世帯分の電力、45メートルの落差を生かす自然エネルギー

愛知県の豊田市に1963年に造られたダムの直下で小水力発電所の建設が始まる。地域の水田に水を供給するための、かんがい用のダムが放流する水力を利用するプロジェクトだ。落差45メートルの水流を生かして、一般家庭で900世帯分の電力を供給できるようになる。

» 2014年08月15日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 小水力発電所を建設する「羽布(はぶ)ダム」は、愛知県を縦断する「矢作川(やはぎがわ)」の流域に水を供給する目的で造られた。51年前の1963年から、豊田市を中心に地域の水田を潤してきた(図1)。

 そのダムから放流する水のエネルギーを利用して、ダムを運営する愛知県みずからが小水力発電事業に乗り出す。8月23日に現地で起工式を開催して工事に入り、2016年度中に運転を開始する予定だ。

図1 「羽布ダム」の位置。出典:愛知県農林水産部

 羽布ダムの直下には放流施設があって、ダムから水路を通して農業用水路に水を送り出す構造になっている(図2)。新たに放流施設の横に発電所を建設して、ダムからの水流を水車発電機に引き込む。水流の落差は45メートルあって、毎秒0.9〜3.0立方メートルの水流を利用して発電する仕組みだ。

図2 発電所の建設予定地。出典:愛知県農林水産部

 発電機には水力発電で最も多く使われている「横軸フランシス水車」を導入する(図3)。発電能力は854kWになり、年間に約320万kWhの電力を供給することができる。一般家庭で約900世帯分の電力使用量に相当する。愛知県は発電した電力の全量を売電する計画である。

図3 発電所の完成イメージ。出典:愛知県農林水産部

 売電収入はダムや農業用水路の維持管理費の軽減に生かす。固定価格買取制度を利用すると1kWhあたり29円(税抜き)で売電できるため、年間に約9300万円の収入になる見込みである。買取期間の20年間の累計では18億円を超える。これに対して発電設備の建設費は約9億円である。

 愛知県は大規模な農業用水路の総距離が全国で3番目に長く、農地の総面積に占める水路の密度では全国で第1位になる。小水力発電が可能な地点は数多くあるが、これまで県内では豊富な日射量を生かして太陽光発電の導入が先行してきた。

 新たに愛知県が農業用水路を中心に166カ所の候補地点で調査を実施したところ、合計で5000kWを超える小水力発電が可能なことがわかった。今後は市町村や農業団体などと連携を図りながら導入事例を増やしていく方針だ。

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