小売自由化で求められる、新たな顧客サービスの仕組み迫りくる電力・ガスシステム改革(2)(1/2 ページ)

第1回では電力・ガスシステム改革の全般的な動向を説明した。今回からは「小売」「発電・送配電(設備管理)」「経営管理」の各業務にブレイクダウンして、必要な施策や海外の先進事例を取り上げる。日本でも電力とガスの小売自由化が進んでいく。自由化における小売ビジネスを考えてみる。

» 2015年03月02日 13時00分 公開
[川島 浩史/SAP Japan,スマートジャパン]

連載第1回:「規制緩和で勝ち続けるために、先行する海外に学ぶ」

 最近はグローバルに展開する公益企業と情報交換する機会が多い。「自由化における小売ビジネスで重要なことは?」と尋ねると、共通するキーワードがいくつか挙げられる。その1つが「ブランディング」である。

 電力やガスといった目に見えないサービスを提供する中で、どのように競合他社と差別化するのか、顧客をどう獲得・確保していくのか。そこで重要になるのが、自社および提供サービスを目に見える形やイメージでブランド化することである。

 海外の自由化された市場では、どのような顧客サービスが各企業で行われているのか。それらを支える仕組みとして必要なものは何か。この2つの点で特徴的な海外の取り組みを紹介していこう。

多様なブランディング戦略と事業を支えるIT

1:自社ブランドの多様化

 ドイツにおける大手公益企業のEnBW社では、小売ビジネスにおいてさまざまな自社ブランドを持っている。ビジネスを展開する地域や提供サービスに合わせて別々のブランドを立ち上げたのである。

 自由化が開始された時には「Yello Strom」という新たなエネルギー小売の子会社を設立した。その名の通りブランドカラーは黄色であり、若者や先進的な顧客層をターゲットにして、「電力といえば黄色」という意識を徹底的に植え付けるマーケティングを展開した(当時は競合大手のブランドカラーが青であったため、黄色vs.青の戦いが繰り広げられた、という話もあったそうである)。それと合わせて、料金メニュー面で積極的なキャンペーンを実施した。

 その結果、Yelloブランドを立ち上げて1年強で、およそ100万の顧客を獲得した。明確な顧客戦略を基軸にした新たなブランドを立ち上げることにより、今までEnBWというブランドで獲得できなかった、もしくは離脱してしまう可能性のあった顧客を、Yelloという新ブランドを活用することにより獲得・つなぎ止めることができたのである。

 EnBW社はYello以外にも、再生可能エネルギーを前面に押し出したり、産業用のサービスであったりと、多様な小売ブランドを展開してグループ全体の収益強化に貢献している。

 これらの小売ビジネスを支える重要な要素がCIS(Customer Information System:顧客管理・料金計算システム)である。複数ブランドを1つのシステムで管理することにより、管理・運用をシンプルにすることができる。さらに多様な料金・キャンペーン戦略をIT(情報技術)システムで数日〜数週間で可能にして、迅速性を武器に競争優位を保っている。

 EnBW社は現在でも業務のコアになるCISを活用して、さらなる顧客エンゲージメント(囲い込み)のためのWebポータルを展開するなど、ITを軸にしたサービスの拡張を継続的に実施している(図1)。

図1 海外の事例から考察した自由化後の小売市場で求められる要素。出典:SAP Japan

2:提携の多様化

 イギリスにおける最大手エネルギー企業のセントリカ社では、異業種とのさまざまな提携を行うことにより、ビジネスの拡大を図ってきた。1つの例がポイントサービスとの連携である。

 イギリス全土で最大規模の会員数を誇るポイント制度「nectar」と提携している。セントリカ社のサービスを利用するとポイントがたまり、普段のショッピングでポイントを利用できる。その逆もしかりである。このような顧客特典スキームからの誘導により多くの価値を創出した。

 エネルギー販売においては小売事業者の「Sainsbury’s」と提携して、同社のホームページ上で電力・ガスの契約ができるようになっている。そのエネルギーを提供しているのがセントリカ社なのである。

 このような提携を通して、他社ブランドを活用しながら自社サービスの販売強化を進めてきた。電力とガスのセット販売や付帯サービスを提供して、より深く顧客の家庭に入り込むサービスを展開している。

 セントリカ社のビジネスを支える重要な要素の1つは、やはりITである。電力・ガスのCISを1つのシステムにまとめて、EnBW社と同様に数日で新しい料金メニューの投入やキャンペーン対応を可能にした。迅速で確実なサービスの提供とともに、マルチブランドによる連携やサービスの拡張を戦略の柱に据えている。現在セントリカ社はイギリスでナンバーワンの顧客満足度を誇っている。

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