鹿児島市の中心部を走る路面電車に蓄電池を搭載して走行試験を実施した。電気自動車に搭載されているのと同じリチウムイオン電池を使って、架線からの電力供給がない状態で10キロメートル走行することができた。停電対策に加えて、景観保護地域では架線を敷設しなくて済むメリットがある。
鹿児島市の路面電車(市電)が運行を開始したのは1912年(大正元年)のことである。それから100年以上を経過した現在でも、市民や観光客の交通手段として日常的に使われている(図1)。
この路面電車を蓄電池で走らせる試験を東芝が実施した。東芝製のリチウムイオン電池を車両の座席の下に搭載して、外部からの電力供給がない状態で走行性能を試すのが狙いだ(図2)。
路面電車は通常の電車と同様に、車両の上を通る架空電線(架線)から電力の供給を受けて走る。今回の走行試験では電力を受け取るためのパンタグラフを下げた状態にして、架線からの電力供給を停止した。
蓄電池の容量は24.3kWh(キロワット時)で、同じタイプのリチウムイオン電池を搭載しているホンダの電気自動車「フィットEV」の蓄電容量(20kWh)よりも少し大きい。蓄電池が供給する電力だけを使って、市電の起点になる「鹿児島駅前停留場」から「郡元(こおりもと)停留場」までの往復10キロメートルを走行することができた(図3)。
路面電車に蓄電池を搭載するメリットは主に2つある。メリットの1つは停電が発生しても自力で走行できる点だ。路面電車が運行する鹿児島市の中心部は活火山の桜島の火口から10キロメートルほどの至近距離にあり、火山灰が電線に積もるなどして停電が発生する可能性は常にある。
もう1つのメリットは架線がなくても走行できるため、市街地の中の景観保護地域にも路線を拡張しやすくなる。鹿児島市の交通局は桜島を望むウォーターフロント地区に、観光用の新しい路線を検討中だ。架線がなくなると、並行して走る自動車の妨げにもならない(図4)。今後は新線の開発と合わせて蓄電池の搭載計画を進めていくことになる。
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