遺伝子導入によって、どの程度、油脂の合成能力が高まったのだろうか。
図4はクラミドモナス由来のプロモーターと遺伝子を導入したナンノクロロプシスの油脂合成能力を示したもの。棒グラフ中の4本のうち、左の2本は遺伝子を導入していないナンノクロロプシス(コントロール株)の値、右の2本は遺伝子導入後(形質転換後)の値だ*4)。
左端に示したTAG(トリアシルグリセロール)の値を見ると、遺伝子導入以前であってもリン欠乏条件で、TAGの合成能力が約6倍に増えている。遺伝子を導入すると、これが9倍以上に高まった。
*4) エレクトロポレーション法を用いて環状DNAを導入した。「ナンノクロロプシスは遺伝子を導入しやすい藻類だ」(太田氏)。図4と図5では20〜40μmol/m2・sという弱い光を使った。真夏の直射日光は約2000μmol/m2・s。
油脂の量を増やすという研究テーマでは成果を得た。もう1つの研究テーマである油脂の組成の制御では、どのような成果があったのだろうか。
特定の脂肪酸(オレイン酸)の合成のみを、増やすことができた。
図5は、図4と同様の4種類の場合、トリアシルグリセロールに含まれるオレイン酸の量がどのように変わるのかを示したもの。コントロール株が合成したオレイン酸の約2倍の量を遺伝子導入によって得たことが分かる。
太田氏は今後の研究の方向性について、次のように語った。「産業への応用を考えると、重要なのは油脂の量と蓄積される油脂の質が高いことだ。いかにして目的に応じて質の高い油をとり出せるか。まずは窒素やリンの濃度に注目したい。窒素やリンを少しだけ与えた条件を調べ、油脂合成の制御を進める。最初から低い濃度で培養が可能かどうかも調べたい。さまざまな条件下で遺伝子にどのようなスイッチングが起きるのかということだ。次にナンノクロロプシスなどに導入する遺伝子の種類を変え、オレイン酸以外の合成を狙いたい」。
微生物に大量の油脂を安定して合成させる研究が複数進んできた。今後は、狙った油脂だけを作るよう微生物をデザインすることが必要だという主張だ。
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