それでも自由な競争が起きない地域は出てくる可能性がある。電力の需要が小さくて発電設備も少ない離島などだ。このため2016年4月の小売全面自由化に合わせて「離島供給約款」を導入する(図4)。離島を対象に、電力会社の小売部門ではなくて送配電部門(2016年4月以降は「一般送配電事業者」に区分)が料金メニューを設定して電力を販売できる体制に変わる。
一般送配電事業者は小売電気事業者から送配電ネットワークの使用料(託送料金)を徴収しながら、地域の需要と供給を調整する役割を担う。託送料金を通じて安定した収益を得られるため、離島供給約款の料金を平均的な水準に抑えることが可能になる。地域全体で離島の電気料金を適正なレベルに維持する仕組みだ。
託送料金は認可制で、電力会社から申請を受けて国が審査を進めている。2015年内に国が認可して託送料金が決まると、電力会社を含めて小売電気事業者は新しい自由料金メニューを設定できる状況になる。同様に離島供給約款も年内に届出が完了して、2016年4月から新しい料金体系の適用が始まる。
さらに将来は離島供給約款と同様の「最終保障サービス」も用意する。2020年4月以降に電力会社の小売部門が経過措置約款を廃止した時点で、離島を除くと完全な自由競争の状態に入る。そうなると電力の供給を受けられなくなる需要家が発生する可能性があり、一般送配電事業者が最終保障サービスとして電力の供給義務を負う。最終保障サービスでは、一般送配電事業者が国に届け出た電気料金を適用する。
こうして需要家が不利益を被らない仕組みを設けたうえで、電力市場に競争原理を導入して料金の低減を進めていく。国が認可する経過措置約款の料金を上限にして、それよりも安いメニューを選択できるようになる。小売全面自由化によって電気料金は確実に下がっていく。
日本の電気料金は第2次石油ショック後の1980年代に最も高く、以後は化石燃料の価格低下に伴って安くなってきた。2011年に発生した東日本大震災の影響で火力発電の燃料費が急増して電気料金は上昇したが、それでも1980年代の水準よりは低い。しかも2014年の後半から原油とLNG(液化天然ガス)の輸入価格が大幅に下落したことで、電気料金に上乗せする「燃料費調整額」は縮小している(図5)。
東京電力の場合を例にとると、2015年7月の燃料費調整額は震災前の2011年1月と比べて標準家庭で月額493円、1kWhあたり1.7円の増加に収まった。さらに2015年12月には月額で75円(0.26円/kWh)まで縮小して、ほぼ震災前の水準に戻る。
今後は固定価格買取制度の「再生可能エネルギー賦課金」と消費税分が上昇する半面、自由化によって事業者間の競争が進む効果で基本料金と電力量料金が安くなる。再生可能エネルギーと税収を増やしても国民の負担は増大しない構造に変わっていく。
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