フライホイール+蓄電池、電力の4割を風力で蓄電・発電技術(3/3 ページ)

» 2015年12月14日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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再生可能エネルギーの増加に対応する5つの方法

 風力発電や太陽光発電の課題の1つは、既存の発電システムと同期せずに電力を生み出してしまうことだ。数秒から数分という時間単位で、系統電力の周波数や電圧に悪影響を及ぼす*5)。火力発電所同士は50Hzなどの周波数を維持するように制御している。ところが風力発電や太陽光発電はそうではない。

 風力発電所などの出力変動に備える方法は多岐にわたる。どの程度の時間単位の変動に備えるのか、どの程度のコストを掛けることができるのか。これによって適した技術、政策が変わってくる。

 国際エネルギー機関(IEA)の下部組織であるIEA-RETD(IEA Renewable Energy Technology Deployment)は、コストに注目した技術・政策の分類を発表している(図5)。再生可能エネルギーの導入比率が高まるにつれて、左から順に取り入れていくことがよいだろう。

*5) この他、10分を超える出力変動には、ガスタービン発電や水力発電の出力調整で対応でき、数時間単位の変動であれば汽力発電が担う。

図5 再生可能エネルギー大量導入に備える方策とコストの関係 出典:IEA-RETD

 日本では「風力発電の抑制」が現在の対策の中心になっており、「貯蔵」に期待が掛かっている。低コストな「市場」の導入が遅れている形だ。例えば電力取引市場を促す発送電分離は2020年4月にようやく始まる。

 日本における風力発電の電力量はわずか0.5%程度。離島などを除けば、現時点では「貯蔵」の導入は必要ないといえるだろう。だが、世界には「貯蔵」を導入する必要がある地域もある。例えばアイルランドだ。

「最終手段」に乗り出す理由とは

 アイルランドの総発電量に占める風力発電量の比率は、15%を突破している。さらに2020年までに風力を中心とする再生可能エネルギー由来の電力量を40%にまで高める政策を進めている*6)

 アイルランドでは図5の「市場」を確立しており、発電技術ではコンバインドサイクルガスタービンによる「柔軟な発電」に頼っている*7)。アイルランドの最高峰は標高1041メートル。国土が平たんであり、水力発電量のシェアは2%強。このため「従来型の貯蔵」で役立つ水力発電システムを導入しにくい。

 「風力発電の抑制」の導入比率は欧州でも最も高い。欧州諸国の抑制・解列の平均は発電量の約0.5%だが、アイルランドは3%だ。3%分の風力発電が既に無駄になっている。そこで「貯蔵」の導入に乗り出す。

 欧州では、系統の周波数(電圧)維持の義務が送電系統運用者(TSO)に課せられている。アイルランド国内では、EirGridとSONIが2011年9月に導入比率40%に向けた再生可能エネルギーの規模拡大に備えた計画「Delivering Secure, Sustainable Electricity System(DS3)」を開始した。2013年12月には、全アイルランド単一電力市場が、系統に従来とは異なる周波数安定化策が必要だと提言。さまざまな電池技術の開発・試験導入が始まった。

 フライホイールと蓄電池をハイブリッド化する取り組みがアイルランドから始まったのは、「必然」だったといえるだろう。

*6) 2001年に欧州連合が定めたEU指令(RES-E)では、2020年までに、加盟国が「20:20:20」を達成するように求めている(温室効果ガスの20%削減、再生可能エネルギーの比率20%、エネルギー効率の改善20%)。アイルランドの目標は以下の通り。2020年までに総発電量の40%。輸送エネルギーなど電力以外も含めた最終エネルギーの16%。冷暖房用エネルギーの15%、輸送エネルギーの10%。
*7) アイルランドは島国であり、アイリッシュ海を挟む英国との間には容量の小さな国際連系線が2本しかない。自国内で問題を解決する必要があった。欧州ではスペインにも似たような制約条件がある(関連記事)。



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