電力市場の自由化を推進する広域機関に、情報システムのトラブルが相次ぐ動き出す電力システム改革(60)(2/2 ページ)

» 2016年05月09日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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データ送信や料金計算プログラムにも不具合

 卸電力取引所の1時間前市場は小売全面自由化に合わせて4月1日に開設した新しい市場である(図3)。従来は前日に取引を完了する「1日前市場」が最も短期の市場だった。自由化に伴って発電事業者と小売電気事業者は常に1時間前の時点で需要と供給量を一致させる「計画値同時同量制度」に移行する必要があり、その対応策として1時間前市場を整備した背景がある。

図3 卸電力取引所が運営する市場。出典:日本卸電力取引所

 1時間前市場は30分単位の電力をいつでも入札できるザラバ方式を採用して、100キロワットごとに事業者が価格を指定して取引できる(図4)。電力の取引としては従来にないダイナミックな方法だ。地域を越えて電力を売買することも可能だが、その場合には地域間の連系線の容量に余裕があることが前提になる。もし該当する時間帯に連系線を利用できなければ、売買した電力を実際に供給することはできない。

図4 1時間前市場の取引ルール。MW:メガワット(=1000キロワット)、kWh(キロワット時)。出典:日本卸電力取引所

 そのために広域機関システムを使って連系線の利用可否を判断するルールになっている(図5)。この判断機能を使えないと、1時間前市場の取引を地域内に限定しなくてはならず、他の地域で余った電力を足りない地域で活用することができない。電力市場の改革を推進するうえで1時間前市場の利用拡大は重要な課題だが、システムの不具合で出鼻をくじかれた格好だ。1日も早い復旧が望まれる。

図5 広域機関システムによる卸電力取引所を含めた計画策定の流れ(画像をクリックすると拡大)。出典:電力広域的運営推進機関

 しかし広域機関システムの不具合は、これだけではなかった。発電事業者と小売電気事業者から送られてくる需要と供給の計画をまとめて一般送配電事業者(電力会社の送配電部門)に送信する機能があるが、このデータを送信するプログラムにも誤りが見つかった(図6)。

図6 計画値同時同量制度の実施プロセス(画像をクリックすると拡大)。出典:電力広域的運営推進機関

 各事業者が広域機関システムに送ってくるデータのうち、最新のものを一般送配電事業者に送信するようにプログラムが作られていなかった。単純なミスと言える。4月5日に問題点を解消したが、それ以前の1日〜4日のデータは一般送配電事業者に再送信して修正している。

 さらに広域機関システムにつながる一般送配電事業者のシステムでも不具合が発生していて、現在も解消できていない。広域機関システムが送ったデータを受信できないケースのほか、需要と発電量の実績値と計画値の差分によって算定するインバランス料金を正しく計算できない状態が続いている(図7)。

図7 計画値同時同量制度におけるインバランス料金。出典:電力広域的運営推進機関

 自由化に伴う業務は新しいことも多いだけに致し方ない面はあるものの、電力業界のシステム開発力に不安が残る。今後さらにガスの小売全面自由化が始まり、2020年には発送電分離という大改革が迫っている。発送電分離に向けた情報システムの開発に早く着手しないと、もっと大きなトラブルを招きかねない。

第61回:「電源構成や電力比較サイトの独立性など、消費者から見た情報提供」

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