熊本県で4月中旬に発生した大地震によって、南阿蘇村にある九州電力の「黒川第一発電所」の設備が損壊していた。水力発電に利用する大量の水が流出したことで、周辺地域の被害拡大につながった可能性が問われている。九州電力は実態を解明するため5月20日までに調査を開始する予定だ。
地震で損壊した「黒川第一発電所」は九州電力が熊本県内で運転する最大の水力発電所(揚水式を除く)である。運転を開始したのは実に106年も前の1910年(明治43年)のことだ。地震の被害が大きかった南阿蘇村にあり、近隣では地滑りや地割れが広範囲に発生して送電線が使えなくなっていた(図1)。
黒川第一発電所の設備のうち、発電に利用する水を貯えるためのヘッドタンク(上部調整池)や導水管などが損壊して、大量の水が流出したことが明らかになっている。この流水によって周辺地域の土砂崩れを引き起こした可能性があるため、九州電力は有識者を交えて因果関係の調査に乗り出すことを決めた。地元の関係者に事前説明を実施したうえで5月20日(金)までに調査を開始する予定だ。
熊本県で4月14日と16日に発生した2回の大きな地震によって、九州電力が県内で運転する水力発電所のうち7カ所で導水管が破損するなどの被害が報告されている。詳細については現在のところ不明だが、震源に近い黒川第一・第二・第三発電所に甚大な被害が発生したとみられる(図2)。
3カ所の水力発電所は阿蘇山を源流とする白川(しらかわ)と黒川の水を利用している(図3)。雨が多くて川の流れが急なため、古くから水力発電が盛んな地域だ。その一方で流域では豪雨による洪水の被害が頻繁に発生してきた。黒川第一発電所の近くでは新しいダムを建設して洪水対策を強化する計画も進んでいた。
黒川第一発電所は最大出力が4万2200キロワットもあり、川の上流に設けた巨大な調整池に水を貯めて発電する方式だ。貯水量は最大で4億立方メートルに達する。調整池から発電所までは導水管で7キロメートル以上にわたって水を送り込む(図4)。それぞれの設備で老朽化が進んでいたことは間違いなく、耐震性が十分だったかが問われる。
水力発電所は火力発電所や原子力発電所と比べて構造が単純で、設備が老朽化しても問題なく発電できるケースが多い。現在も全国各地で古い水力発電所が数多く運転中だ。電力会社のほかに自治体や民間企業が運転する水力発電所を含めて、耐震性の確認・強化を急ぐ必要がある。
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