ショートしない全固体リチウム電池、世界最高レベルの導電率蓄電・発電機器(1/2 ページ)

産総研の研究グループは高い安全性と信頼性を実現した小型全固体リチウム二次電池を開発した。単結晶を用いて作製した固体電解質部材は、酸化物系で世界最高レベルの導電率を実現したという。

» 2017年02月09日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 産業技術総合研究所の研究グループは、酸化物の単結晶を固体電解質部材とする小型の全固体リチウム二次電池を開発した。電池内部でショートが発生しづらいなどの特性を持っており、長寿命で高い安全性と信頼性が必要とされる産業機器に向くという。企業と協力して2020年頃までを目標に実用化したい考えだ。

図1 現行のリチウム二次電池の構成と今回開発した全固体リチウム二次電池の構成 出典:産総研

 安全性の観点から、現在の主流である可燃性の有機電解液に替わり、不燃性である硫化物や酸化物の無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の開発が進められている。現在、有力とされている無機固体電解質の材料には、硫化物系と酸化物系の二種類がある。硫化物系固体電解質材料は酸化物系固体電解質材料よりも一桁程度リチウムイオン導電率が高く、可塑性に優れた固体であるため電極と固体電解質の界面の接合が容易に形成できる。しかし、大気中に暴露すると有毒な硫化水素ガスを発生するため、実際の使用には堅牢な封止加工が必要であり、生産コストが高いという課題がある。

 一方で酸化物系固体電解質材料は化学的な安定性が高く、環境適合性の点で優れるが、これまでの技術ではリチウムイオン導電率が有機電解液より低いこと、隙間なく十分に稠密(ちゅうみつ)な固体電解質部材ができず、金属リチウムの貫通により内部短絡してしまうこと、電極と固体電解質の界面の接合が強固でないといった実用化課題があった。

 産総研の研究グループは、これまでに有機電解液と同程度のリチウムイオン導電率をもつ酸化物系固体電解質材料の開発を目指し、ガーネット型結晶構造の酸化物(ガーネット型酸化物)材料の研究に取り組んできた。特に有機電解液より低いリチウムイオン導電率や、稠密性の不足による金属リチウムの貫通に起因する内部短絡などの課題解決に向け、固体電解質部材の単結晶化技術の開発を進めてきた。

 この他、電極と固体電解質を強固に接合するため、産総研オリジナルの常温製膜技術を応用した全固体リチウム二次電池の開発を進めてきた。今回、それらの技術を組み合わせて、新しい全固体リチウム二次電池を目指す開発に取り組んだ。

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