水素の輸送コストを低減する、高効率な分離膜を新開発電気自動車

水素キャリアの低コスト化に貢献するとして期待されている「有機ハイドライト法」。水素を化学反応させて一度液体にし、輸送しやすくするという手法である。課題となるのは、液体から再び水素を取り出すための低コストな技術の確立だ。NOKと産業技術総合研究所の研究グループは、有機ハイドライドからFCV用の超高純度水素を分離精製できる、大型の炭素膜モジュールの開発に成功した。低コストかつ高効率に水素を分離できる性能を実現したという。

» 2017年03月14日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 NOKと産業技術総合研究所(以下、産総研)の共同研究グループは、有機ハイドライドから燃料電池自動車(FCV)用の超高純度水素を分離精製する大型の炭素膜モジュールの開発に成功した。1時間当たり1m3(平方メートル)の水素精製能力を持ち、一度の分離操作でFCV用の超高純度水素のISO規格純度を達成できるという。有機ハイドライドを利用した水素ステーションの運用コスト低減への貢献が期待できるとしている。

 新しいエネルギーとして注目されている水素。普及に向けた課題の1つが低コストな貯蔵・輸送技術の確立だ。水素は常温では圧力をかけても液化せず、−253度という極低温が必要になる。そこで化学反応を利用して水素を液化し、貯蔵・輸送しやすくする技術・手法の確立に期待が掛かっている。

 その1つが「有機ハイドライド法」と呼ばれる芳香族化合物に水素を結合させて水素化物をつくりだす手法だ。例えばトルエンと水素を化学反応させると、メチルシクロヘキサンという液体になる。これは常温・常圧でそのまま運べるため、通常のタンカーやローリーの利用が可能になり、大量貯蔵や長距離輸送に向く。共同研究グループは、メチルシクロヘキサンをエネルギーキャリアとし、これを利用できる水素ステーションの研究開発を進めてきた。

有機ハイドライト型水素ステーションのイメージ 出典:NOK

 その中で、実用化に向けた課題となっていたのがメチルシクロヘキサンから再び水素を取り出す技術だ。メチルシクロヘキサンを脱水素して生成する水素とトルエンの混合物から、ISO規格で定められている非常に高い純度で水素を取り出す必要がある。しかし従来の「圧力スイング吸着法(PSA法)」という方法では多大なエネルギーを必要とし、設備規模や起動時間、水素回収率などに課題があった。

 これに変わる技術として注目されているのが、省エネ性に優れる膜分離法を利用する方法だ。しかし水素とトルエンの分離は、既存の有機膜では水素選択性やトルエンへの耐薬品性が十分ではないという課題があった。

 そこで研究グループでは、新規分離技術として無機膜の一種である炭素膜を採用し、高性能炭素膜の開発を進めてきた。その結果、一度の分離でFCV用水素規格を達成可能な炭素膜の開発に成功した。さらに炭素膜の製造方法の改善などに取り組んだ結果、大型化にも成功した。中空糸型の形状で、膜コストが安く、かつコンパクトな精製装置を実現できるメリットがあるという。

 開発した炭素膜モジュールは、1時間当たり1m3の水素精製能力がある。90度の水素/トルエン混合ガス供給時においても優れた性能を維持し、500時間以上にわたって安定的に分離が行えたとしている。また、JXエネルギーが実施した実運転条件による水素/トルエン分離試験で、FCV用水素規格を満足する高純度水素を安定的に製造できることも確認した。さらに水素精製のみならず、二酸化炭素回収やメタン濃縮、ガスの除湿(脱水)など多様なガス(蒸気)の分離精製への応用も可能だという。

炭素膜を用いた水素分離のしくみ 出典:産総研

 水素を運搬しやすい有機ハイドライド法において、さらに水素を効率よくかつ低コストに取り出すことができる精製装置が可能になれば、水素利用のコスト低減が期待できる。研究グループでは今後、炭素膜の水素精製能力のさらなる向上と量産化、大型モジュール化の開発に注力し、実用化を目指す方針だ。

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