結晶シリコン太陽電池のセル変換効率を高める手法は、多岐にわたる。現時点では裏面構造と電極を改良し、量産品に適用する動きが主流だ。
図A-1に一般的な太陽電池セルの断面構造を示した。左側が2016年時点でほぼ9割に採用されている「BSF(Back Surface Field)型」。従来のようにp型シリコンウエハーの裏面に直接アルミニウム裏面電極を形成するのではなく、BSFと呼ばれる裏面障壁を設けたものだ。
BSFの実体はホウ素ドープによる正孔が過剰な層(p+層)。BSFを設けることで、電子・正孔対のうち、電子が裏面電極に入り込むことを防ぎ、結果として変換効率を高める。BSF層は導電性が高いため、太陽電池セル内部の直列抵抗も下がる。
BSF型を改良したのが、今回1366 Technologiesが採用した「PERC(Passivated Emitter and Rear Contact Cell)型」。図A-1の右側に示した。p型シリコンウエハーの裏面に誘電体層(パッシベーション層)を形成する。
その目的は、裏面のシリコンとアルミニウム電極の界面で起こる再結合を防ぐことだ。つまりエネルギー損失が起こりにくくなる。誘電体層は絶縁体であるため、図右の右下にあるように、所々にレーザーやエッチングを用いて「穴」を形成し、アルミニウム裏面電極がシリコンウエハーと接触できるようにする。
この穴の直上にp+部分を形成するPERL(Passivated Emitter and Rear Locally Diffused)型や、誘電体の内側全体にp+部分を形成するPERT(Passivated Emitter and Rear Totally Diffused)型などの派生系もある。
1366 Technologiesの設立目的は、太陽光発電によって生み出す電力コストを石炭火力以下にするというもの。そのためには、シリコンウエハーの製造コストを引き下げ、変換効率を高めなければならない。
変換効率はこれまで紹介したように順調に向上している。製造コストはどうなのか。
1366 Technologiesは、出発原料の珪石(けいせき)や珪砂(けいしゃ)から、シリコンウエハーを製造する一般的な製造工程の中に、無駄な工程があると主張する。シリコン結晶のインゴットをスライスしてウエハーを製造する際に、約50%が産業廃棄物の切粉になってしまうという指摘だ(関連記事)。
Lozen氏は次のように語る。「エネルギーを投入して、純度99.9999999%(9N)いう地球上で最も高度に精製された物質を作りながら、そのうち半分を廃棄する。残念なことだ。当社のDirect Wafer技術ではこれを避けることが可能だ」。
Direct Wafer技術の核の部分は公開されていない。「溶融シリコンからウエハーを製造する手法が、1394 Technologiesの知的財産の中核だ。例え話で説明するとこうなる。(冬季に)湖の表面に形成された薄い氷のように、(適切な条件を設定すると)溶融シリコンの表面で(薄く固化した)ウエハーが形成される。これを溶融シリコンから引き上げる手法が特に重要だ。引き上げ後は、レーザートリミングを施すためにコンベヤーベルトへと移動させている」(同社)。
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