再エネ大量導入に対応する新しいエネルギー管理手法、東京工業大が開発エネルギー管理

東京工業大学が再生可能エネルギーの大量導入に対応し、安定的に電力を供給する新たな「前日計画法」を開発。再エネによる発電量の変動幅を前日に予測(区間予測)することで、再エネや需要のリアルタイム変動に合わせて「当日運用」で発電機や蓄電池を最適に運用できるという。

» 2019年02月19日 09時00分 公開
[スマートジャパン]

 東京工業大学の研究グループは2019年2月、再生可能エネルギー(再エネ)の導入に対応しつつ、安定的な電力供給を実現する新たな前日計画法を開発したと発表した。再エネ発電量の変動幅の予測(区間予測)を利用し、当日の運用において、再エネや電力需要のリアルタイム変動に合わせて発電機や蓄電池を最適に運用する。

 現在の主たる電力供給方式である火力発電は、発電機の起動と停止に数時間程度の準備運転や事後運転が必要で、瞬時に電力供給を開始・中断することができない。そのため、時々刻々と変化する電力需要に合わせて需給バランスを維持するためには、電力需要を適切に予測した上で、需要変動などに応じてリアルタイムに調整可能な発電機群の起動停止時刻を、前日までに計画しておく必要がある。

 一方、近年導入が進んでいる再エネは、天候の変化などにより発電量が大きく変動するため、前日に発電量を予測することが難しく、従来型の火力発電機のように発電量を電力需要に合わせてリアルタイムに調整することができないことが大きな課題となっている。このような背景から、再エネを電力網に組み込んでも安定した電力供給を実現するために、発電機や蓄電池を用いた安定的な運用計画手法の開発が望まれていた。

 正味電力需要の不確かさを考慮した発電機の前日起動停止計画法は、「ロバスト起動停止計画法」と呼ばれている。ロバスト起動停止計画法では、翌日24時間に対して、1時間ごとの各時刻における正味電力需要の変動範囲のみが予測されていること(正味電力需要の区間予測)を前提とする。その範囲内で変動するどのような正味電力需要の時系列シナリオに対しても需給バランスを維持できる発電機の起動停止計画を前日段階で算出する。

 このような正味電力需要の区間予測を利用したロバスト起動停止計画法は、電力工学分野でも最先端技術の1つであり、現在は実応用に向けて研究が進められていた。しかし、これまでに開発された手法では、当日に運用が開始される時刻(例えば深夜0時)で、その時刻の正味電力需要だけでなく、先の24時間にわたる正味電力需要の時系列シナリオも同時に確定すること、深夜0時で先の24時間における正味電力需要の実測値が全て分かることを前提としており、この点で現実的ではなかったという。

 今回の研究では、従来手法の問題点を解決する新たなロバスト起動停止計画法を世界に先駆けて開発した。具体的には、前日の段階で発電機の起動停止計画に対して、運用当日の各時刻でリアルタイムに調整ができる蓄発電量の範囲も同時に求める新たなロバスト最適化問題を定式化し、その効率的な解法を構築した。例えば、ある時刻の蓄発電量の調整許容範囲は、その時刻だけでなく、他の全ての時刻における正味電力需要の変動幅や発電機と蓄電池の物理制約などを考慮して算出される。そのため、当日の運用では、当該時刻における正味電力需要の実測値とバランスをとるように、調整許容範囲内でリアルタイムに蓄発電量を調整するだけで、その時刻以降の不確かな正味電力需要に対しても安定供給を実現する蓄発電運用が可能であることが保証される。

 提案した最適蓄発電計画法の適用可能性を検証するために、発電機54基から構成されるモデルであるIEEE118バスシステムに対して、系統運用に貢献する容量の蓄電池を6台追加して計算性能の評価を行った。具体的には、正味電力需要の区間予測が複数パターン与えられた場合に、それぞれの区間予測に対して最適な発電機の起動停止計画と蓄発電量の調整許容範囲を計算するのに要した時間を計測した。その結果、標準的なスペックの計算機でも、平均43秒程度で効率よく最適解を求められることが分かった。これは、発電機が数十基程度の規模の電力系統に対して、十分短時間に最適な蓄発電計画が求められることを示しているという。

開発した手法による発電機2基と蓄電池の運用イメージ 出典:東京工業大学

 同手法は、最先端の予測手法である再生可能エネルギーの区間予測を応用した新たな蓄発電運用計画法として新規性があるだけでなく、再生可能エネルギーを基盤電源とする次世代電力系統に対して、安定供給に関する信頼度評価や最適電源構成の定量解析に向けた基盤技術として発展が期待される。具体的には、政府により提唱されている導入シナリオに沿って再生可能エネルギーが普及することを想定した場合に、その導入量に応じて発電量の不確かさを補うために必要となる火力発電機や蓄電池の最適容量を解析する基盤技術として活用することが可能だ。今後は、このような再生可能エネルギー導入シナリオに基づいた系統信頼度の変化を解析し、安定供給や環境性、経済性の観点から必要となる蓄発電設備の種類や規模などについて、より具体的な指針を与えていくことを目指す。

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