東京電力とイーレックスが再エネ販売で新会社、“大手と新電力”の提携が加速する背景とは電力供給サービス(2/2 ページ)

» 2019年03月19日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]
前のページへ 1|2       

「大手電力×新電力」の流れが加速する背景

 自由化当初はライバルとして語られることの多かった大手電力会社と新電力の関係だが、2018年ごろから距離を縮める動きが広がりはじめている。

 象徴的な例では、「基本料金0円」と「自然派」を掲げ、2016年4月の電力自由化から小売電力市場に参入した新電力ベンチャー群の中でも大きな存在感を示すLooopは、2018年10月に中部電力からの出資を受け入れることを発表(「Looopと中部電力が資本提携、狙いは「FIT制度に依存しない再エネ普及」」)。さらにLooopは関西エリアの高圧部門において、関西電力の取り次ぎとして営業も行っている。また、東京電鉄グループの新電力である東急パワーサプライは2018年に東北電力から33.3%の出資を受け入れた他、中部電力と大阪ガスが共同設立したCDエナジーダイレクトのガス販売の取り次ぎとなっている。

 大手電力会社が新電力と手を組む目的は、再生可能エネルギーなどの新興領域や、ベンチャーならではのサービス開発に対する知見やノウハウの獲得、販路の拡大などが挙げられるだろう。特に後者については、ブランドの認知が低い、あるいは営業網が弱い地域に対し、新電力を通じて開拓ルートを作れるというメリットは大きい。

 一方、新電力からみた場合の提携のメリットはさまざまだ。経営資本や販路の拡大といった一般的な利点もあるが、新電力経営の超重要項目である“電力調達”に関するメリットが大きい。

 一般的な新電力は大手電力会社のように、自前の大規模な発電所を持っていない場合が大半だ。大規模な投資が必要になるため、新規開発も容易ではない。そのため、卸取引市場(JPEX)や、発電事業者との相対契約などを利用して電力を調達する。

 ただ、前者の卸取引市場については市場価格が安定しておらず、新電力を悩ませる大きな要因となっている。特に2017年は冬場を中心に電力価格が高騰し、新電力の経営に大きな影響を与えた。そのため、そうした市場調達のリスク低減を目指し、発電事業者と事前に年間の購入電力量と価格を決める相対契約の調達を増やしたいと考える新電力が増えるのは必然だ。

 こうした背景から、協業や提携で大手電力会社の発電部門から相対契約を獲得しやすくなるというメリットは、新電力にとって大きな意味がある。一方の大手電力会社からすれば、こうした相対契約による新電力への卸供給は、協業における有効なカードの一つであり、安定的な電力の販売先を確保できるという利点もある。イーレックスも今回の提携で、東京電力側から電力の卸供給を受ける模様だ。「相対契約もやっていかなくてはいけないと感じている。卸取引市場などからの調達も含め、電力調達の最適解を選択していく必要がある」(イーレックス 本名社長)

 加えて、1契約当たりの販売量が多い高圧需要家向けの市場では、競争が激化している。九州・関西エリアでは原子力発電所の再稼働などを受け、大手電力会社が電気料金の引き下げを行っていることも大きく影響している。消耗戦を避け、高圧領域では大手電力会社と手を組む方が良いと考える新電力が出るのは当然だろう。

 実際にイーレックスの本名社長は会見で「現状を直視すると、電力全面自由化によって市場環境が激変し、閉塞的な販売状況に頭を悩ませてきた」と語る。さらに同氏はこうした状況や環境政策の動向などを受け、「(今回の新会社設立について)2018年秋から東電EPと議論を重ねてきたが、新電力と旧一般電気事業者の垣根を超えた協業が必要だと考えた。これは電力自由化の1つの成果だと考えている」と話す。

 他の新電力に先駆けて高圧領域で事業を展開してきた“老舗新電力”のイーレックスが、東電EPとの提携を選んだというインパクトは大きい。具体的なプランなどの公表はこれからだが、今後のニーズ拡大が見込まれる再生可能エネルギー由来の電力プランも持つ、強力な新プレイヤーが誕生したことは間違いないだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.