発電事業ありきは本末転倒、ソーラーシェアリングの普及に必要な営農者の視点ソーラーシェアリング入門(20)(2/2 ページ)

» 2019年10月21日 07時00分 公開
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発電事業ありきのソーラーシェアリングは本末転倒

 午後の部のトークセッションでは、基調講演の内容も踏まえつつ「ソーラーシェアリングの課題と将来展望」をテーマにトークを展開しました。私がモデレーターを務め、一般社団法人太陽光発電事業者連盟の谷口洋和代表と、株式会社ONE DROP FARMの豊増洋右代表に登壇いただいてのセッションです。まずは私から話題提供を行い、ソーラーシェアリングが韓国や台湾・中国などアジア圏で広がりを見せており、韓国では2030年までに1000万kWの導入が計画されていること、中国では既に700万kW以上が導入されていると見られる一方で、我が国は本格導入から6年半が経過しても50〜60万kW程度の導入に留まること、農業従事者の平均年齢が2018年に66.8歳となるなど高齢化が著しく、毎年の新規就農者も2万人に留まって後継者の不足も続き、現役農業者が長期の事業投資となるソーラーシェアリングへ踏み出す意欲を持てない状況にあるのでは――といった投げかけを行いました。

トークセッションの様子

 事前に会場の参加者から出された質問内容への回答も交えつつ、谷口氏からは太陽光発電のポテンシャルや収益性、EPT(Energy Payback Time)、災害時の保険などについての話があり、豊増氏からは農業者の現状を踏まえたソーラーシェアリングによる収益増加のメリット、現実的に農業者が今後の農業をどのように考えているか、太陽光パネルの遮光が作物の生育などに与える可能性のある要素などについて話がありました。ソーラーシェアリングの課題は各論で見ていけばいくらでも細分化できますが、何よりもここで取り上げたかったのは「今の農業者がソーラーシェアリングに取り組む意欲を持ち得るのか」です。

 私も各地でソーラーシェアリングに関する講演や事業化支援を行ってく中で、「ソーラーシェアリングで地域の発電事業を行いたいが、農業者が見つからない」という相談を非常に多く受けます。しかし、ソーラーシェアリングは農業を支える・活性化させるための事業であり、その計画は本質的には農業ありきですから、農業者が見つからないという理由で事業が出来ないという状況が、本末転倒と言えます。発電事業者となりたい主体が現在は農業者でなくても、ソーラーシェアリングをきっかけに農業事業への参入を果たす事例もサポートしてきましたが、少なくともそのような気概がなければ取り組むことは出来ないものです。

 また、農業者の高齢化が進む中で、後継者もいなければ1000万円以上の設備投資をして20年以上にわたる事業を行おうとは思えないでしょう。ソーラーシェアリングの普及を図る中で、農業者に啓発しているが反応が鈍いという声も受けますが、農業の置かれた現状を見れば積極的にソーラーシェアリングを導入しようという農業者は、長期にわたって農業を続けようという展望を持っている人などに限られます。そういった、主に発電事業側からアプローチする方々の認識の齟齬(そご)を正す意味でも、発電事業と農業の実態から話すことが出来る登壇者を今回はお招きしました。

 今回のソーラーシェアリングサミットで、私が閉会の挨拶もさせていただきましたが、農業の衰退や気候危機に対応するための再生可能エネルギー導入は時間との戦いであり、今年・来年に具体的にどの程度導入するかを議論すべきフェーズであることを強調しました。FIT前半期の2010年代前半であれば、まだ学びながら取り組みを深めるアプローチもあり得ましたが、今はもうソーラーシェアリングも確実に結果を出していく段階にあり、今回のソーラーシェアリングサミットを切っ掛けに実際のアクションにつながることを期待して会を締めました。

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