太陽熱で効率40%の水素製造を実現へ、製造プロセスの大幅な省エネに成功蓄電・発電機器

量子科学技術研究開発機構(量研)、芝浦工業大学、日本原子力研究開発機構は2020年4月、従来比70%減という熱化学水素製造プロセスの主反応の大幅な省エネルギー化に成功したと発表した。これにより、技術的成立性の指標となる水素製造効率40%の達成に見通しがついたという。

» 2020年04月24日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 量子科学技術研究開発機構(量研)、芝浦工業大学、日本原子力研究開発機構は2020年4月、従来比70%減という熱化学水素製造プロセスの主反応の大幅な省エネルギー化に成功したと発表した。これにより、技術的成立性の指標となる水素製造効率40%の達成に見通しがついたという。

 次世代エネルギーとして期待される水素の大規模・安定的な製造法の一つに、ヨウ素(I)と硫黄(S)の化合物で水を熱分解する「ISプロセス」がある。この手法において環境負荷を低減するために太陽熱を利用する場合、太陽熱から得られる上限温度とされる650℃では温度が低く、水素製造効率が高まらないという課題がある。

 650℃においても、水電解法などの既成の水素製造技術を超える40%程度の効率を実現するためには、ブンゼン反応の過電圧を従来の0.65Vから0.2Vに低減すること、つまり大幅な省エネを実現する必要があるという。その場合、反応過電圧の約7割は陽イオン交換膜の抵抗に起因しているため、膜の低抵抗化が省エネの大きな鍵となる。

ISプロセスのイメージ 出典:量子化学技術研究開発機構

 そこで量研は「量子ビームグラフト・架橋技術」を用い、新たな低抵抗陽イオン交換膜を開発。芝浦工業大学は、陽極反応(硫酸生成反応)による過電圧を低減するため、多孔質化した金陽極を開発した。日本原子力研究開発機構はブンゼン反応の最適温度が50℃であることを見出した。

 開発した陽イオン交換膜と金陽極を膜ブンゼン反応器に組み込み、50℃での試験を実施したところ、従来試験と比べて膜抵抗の過電圧を約8割、陽極反応の過電圧を約4割減少できた。その結果、全体の反応過電圧を目標値である0.2Vに低減に成功した。太陽熱の650℃という比較的低温でも水素製造効率40%の達成に見通しが立つことを世界で初めて示した成果だという。

 今後研究チームは技術の実用化を目指し、プロジェクトで確立した各要素技術を統合して、小規模な水素製造試験を実施する予定。太陽熱駆動ISプロセスの技術を確立できれば、大量の水素を製造して燃料電池車や家庭用燃料電池への供給が可能になり、「水素社会」構築への大きな貢献が期待されるとしている。

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