「COP26」の“前と後”を読み解く――日本企業が知っておきたい気候変動の潮流「COP」を通じて考える日本企業の脱炭素戦略(前編)(4/5 ページ)

» 2021年12月27日 07時00分 公開

「COP26」において無視できないZ世代の力

 COP26は英国とイタリアの共同開催であったが、政府間の協議の場であるグラスゴーでのメインの会議体(COP)の動向にどうしても注目しがちである。そのため、COPの1カ月前にミラノで開催されたプレイベントである「Youth4Climate」サミットが各国の首脳に与えた影響はほとんど知られていない印象がある。

「Youth4Climate」の様子 出所:Youth4Climate

 Youth4Climateは世界中から招へいされた15歳から29歳までの若者400名が集まり意見の集約を行う会議体で、毎年本会議であるCOPの前に開催されている。若者たちで構成されるこの会議体は決してデモンストレーションではなく、本会議であるCOPが若者の意見を取り込むプロセスとして位置付けられている公式の意思決定の場だ。国連事務総長アントニオ・グテーレス氏から勅任を受けた、スリランカの環境活動家でもあるジャズマ・ウィックナマラヤケ(Jayathma Wickramanayake)氏も会議に参加しており、高度な政治的権限が会議体に付与されている。なお、今年のサミットにおける主要な提言(「Manifesto」と呼ばれる)は以下の通りである。

  • 透明性の高い気候変動ファイナンスの仕組み
  • 2030年までに化石燃料を使用するエネルギーの廃止
  • 持続可能でかつ責任ある観光

 日本ではエネルギー産業に関わるニュースがほとんどであるため、3番目の観光に関するテーマの重要性を知る機会が少ない印象だが、実は世界のGHGの8%は観光産業から排出されている。イタリアは観光立国であるが、近年ではEU域内で最悪の自然火災や海面上昇によるベネチアの水没、シチリア島の熱波、モンブラン氷河の融解や洪水などにさいなまれ、観光資源への被害が既に顕在化している。COPのプレイベントにおいて観光に関連するテーマを盛り込みたかったのはイタリアであり、COP26の議長国に立候補した理由でもあるだろう。

 Youth4Climateで起案された内容は議長のアロック・シャルマ氏、イタリアの環境移行相ロベルト・チンゴラーニ氏や各国閣僚が内容を点検・編纂(へんさん)し、最終的にメイン会議体であるCOP26でアジェンダとして挙げられる仕組みになっている。議長のシャルマ氏がCOP26を開催するにあたり「全ての閣僚はCOP開催期間中の交渉および自国の気候変動対策を議論するにあたり、若者たちの優先テーマを考慮すること」を求めた。

 お気づきの方も多いと思うが、サミットに招へいされた15歳から29歳の若者は、一般的にマーケティング業界でZ世代(一部はミレニアル世代)と呼ばれる年齢層を指す。特にZ世代は最も社会課題に敏感であると言われており、上の世代に対して責任ある行動を求める傾向がある。アメリカのコンサルティング会社が国内で行った調査によると若年層の最大の関心事は「環境(environment)」であり、自分の買い物や将来の雇用主に対して持続可能性(sustainability)を求めているという結果が出た。

 この傾向は納得できる。なぜなら、Z世代の若者は2005年にニューオーリンズ市を水没させたハリケーンカトリーナや近年頻発しているカリフォルニアの森林火災など、未曾有の自然災害が自分たちの生活を破壊しており、それらは先代が引き起こした気候変動という人災であることも知っているからだ。これは近年、豪雨災害にさいなまれている日本の若年層であっても同じようなマインドがあるだろう。まだZ世代は若年層が多いが、あと数年もすれば市場に消費者、または労働者として参入してくる。そのため、彼女、彼らの意見に耳を傾けることは近い未来を知ることと同意なのである。

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