少し話は逸れるが、奇しくもこの流れは貧困や飢餓など、世界の諸問題に対する取り組みとして2000年に国連で採択された、SDGsの前身である「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」と構造が似ている。MDGsでは途上国の貧困削減を中心に8つのゴールに目標値が設定され、先進国はその支援者の役割に留まった。
MDGsの期限である2015年までに、中国、インドなどの新興国の社会福祉(Well-being)が大幅に改善したことで、MDGsは一定程度達成されたとされている。しかし、貧困から抜け出すことができない国は依然として多かった。
社会問題の解決においては、「先進国は援助者」で「途上国は援助の裨益(ひえき)者」という関係が、第二次世界大戦後から長らく続いてきた。しかし、貧困、教育格差、人権問題などの社会課題の解決には先進国の政府だけでなく、民間企業なども含めた、全世界のステークホルダーが解決の責任を負っており、能動的な関与が必要であるという認識が生まれた。こうした背景から、2015年に全ての国連加盟国が2030年までに達成すべき目標として「持続的な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が国連で採択されるに至った。
そのため2015年は気候変動や貧困対策などの世界の諸問題に関して、これまで先進国と途上国に分断された社会から、世界全体が責任をもって取り組むべき課題であると認識された転換点となったのである。
前段が長くなってしまったが、ここからは2021年11月に閉幕したCOP26に関して触れていきたいと思う。まず、COP26で決まった概要を紹介する。
主要な合意内容は上記であるが、排出削減の目標値や、排出権取引所のルール作成などは過去のCOPで議論されていることであり、再確認することに意義があるものの、新しく決まったことではない。また、途上国への支援も北側(先進国)の責任を果たす手段として、大規模な資金提供が2009年のコペンハーゲンで既に合意されている。COP26では先進国の取り組みが不十分であるとクギを刺しただけであり、新しいテーマではない。その他の合意事項である、2030年までに世界の約85%の森林に対して伐採を止めること、金融機関などの資金提供者によるクリーンエネルギー分野への積極的な投融資、化石燃料に関連する案件への資金提供を避けるといった取り組みもまた、これまでの潮流と変わらない。
一方で、COP26で注目すべき取り決めは2つあると考えている。1つ目が“世界の2大GHG排出国”であるアメリカと中国による、今後10年にわたるGHG削減とクリーンエネルギーへの転換に関する協力合意がなされたことだ。両国の協力体制によってGHG削減の取り組みがますます活発化していくことだろう。それ以上に自らを世界最大の途上国と宣言している中国と、世界最大の先進国であるアメリカが協働することは、気候変動における南北対立に一定程度の解決がなされたとみてよいのではないだろうか。南北が協働する流れを両国が作り出したことは特筆に値する。
2つ目は石炭使用の使用削減だ。再生可能エネルギーへの投資が近年活発化していることから、化石燃料を使用する発電の削減は長い間続けられてきたが、初めて石炭がやり玉にあがった。これは安価に発電できる石炭に依存する途上国だけでなく、発電の約3割を石炭火力に依存する日本にとっても厳しい内容であるのは相違ない。化石燃料の中でも石炭火力発電は最もCO2排出量が多い。そのため、石炭使用を止めることがGHG削減を大きく前進させると考えられており、COP26では当初、合意文章の中で「石炭使用を廃止(Phase-out)」が盛り込まれた。しかし、会議の終盤になって「文言を削減(Phase-down)」に変更せざるをえなかった議長が、謝罪し涙を流した場面を覚えている方も多いと思う。その涙の裏側にはどういった背景があったのだろうか。
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