「COP26」の“前と後”を読み解く――日本企業が知っておきたい気候変動の潮流「COP」を通じて考える日本企業の脱炭素戦略(前編)(3/5 ページ)

» 2021年12月27日 07時00分 公開

涙の裏側――「COP26」の議長国、英国の狙いとは?

 実はCOP26の議長国を務めた英国は、1980年代に当時のサッチャー首相がエネルギー産業の高付加価値化を進める一環として旧来の石炭火力発電から撤退しはじめ、先進国の中でも最も早いペースでGHG削減に成功している国である(図1および図2参照)。G7の加盟国は2035年までに再生可能エネルギーによる発電100%を目指すと表明しているが、ボリス・ジョンソン現首相は英国主導でその目標をいち早く実現しようと躍起だ。

 同時に、クリーンエネルギーへの転換のために途上国に対する巨額投資(気候変動版「マーシャル・プラン 」と呼ばれる)をG7首脳に合意させており途上国への外交力も強めている。そのため先のEU離脱後(Brexit)の最大イベントであるCOPで自国の脱炭素社会の取り組みを世界の標準にすべく、議長国としてのリーダーシップを発揮することがEU離脱の強硬派であり、英国の新しい在り方を模索するジョンソン氏の狙いであった。

図1 先進7カ国(G7)のCO2排出量(1990年の排出量を100とした場合) 出所:Our World In Data, CO2 emissions(2021年12月15日参照)よりクニエ作成
図2 英国の電源構成別割合 出所:Our World In Data, Electricity Mix(2021年12月15日参照)よりクニエ作成

 再生可能エネルギーによる電源開発は英国の一丁目一番地だ。そのため、是が非でも化石燃料への依存から世界を脱却させ、英国流の低炭素社会を世界に普及させることが最大の目的であったのは想像に難くない。そのため、COPの開催期間中は石炭火力発電廃止に向けて英国政府は奔走した。

 特にCOP26の議長に任命されたアロック・シャルマ氏は石炭廃止に熱心な政治家であり、過去には「石炭を歴史の中に葬る」と発言していたほどだ。彼はもともと環境規制に詳しい政治家として知られており、過去には英国の途上国に対する援助政策を担う旧国際開発省(DFID:Department for International Development、現在は外務・英連邦・開発省(FCDO)に統合)の元大臣、ならびに同国の産業発展を推進しているビジネス・エネルギー・産業戦略省の元大臣も務めた。また、彼が政治家になる前はロンドンの金融街シティで会計士としてキャリアを積んでいる。

 そのような人物が議長に任命された背景から察するに、英国が外交や再生エネルギーなどの産業開発、資金面で影響力を見せたかったことをうかがい知ることができるだろう。会議の終盤に、石炭使用の廃止に際して中国、インドによる反対を受けて、「廃止(Phase-out)」から「削減(Phase-down)」に変更せざるをえなかったのは、英国だけでなくシャルマ氏自身にとっても苦渋の決断であったのは想像に難くない。しかし、COP26閉幕後、直ちに英国は金融と製造業などの事業会社が一体となって、取り組みを開始している。英国流の脱炭素モデルを国際標準化し、世界全体に普及させる動きが英国規格協会(bsi.)などを中心に既に始まっている。

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