発電所に対する長期収入の確保へ、20年の固定報酬を入札で決める新制度法制度・規制(1/3 ページ)

電力需給の安定化につながる供給力の確保と脱炭素化の両立に向けて、電源(発電所)への新規投資や改修を促す新たな報酬制度の創設が検討されている。容量市場とは異なり、一度の入札で20年間にわたる長期の固定収入を決められる仕組みとなる見通しだ。

» 2022年06月08日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 供給力(kW)の確保と脱炭素化の両立を目的として、電源の新規投資や既設電源の改修に対して、長期間固定収入を確保する新たな仕組みの検討が資源エネルギー庁において進められている。

 エネ庁ではこの新制度にまだ名称を付けておらず、制度検討作業部会等の審議会では、「本制度措置」と呼んでいるが、これでは分かりにくいため本稿では仮に「長期固定制度」と短く呼ぶこととする。

 これに類似する制度としてすでに容量市場が存在するが、容量市場はオークション開催から4年後の1年間における報酬を提供する制度であるのに対して、この新たな長期固定制度では20年間という長期の支払期間(制度適用期間)とする案が示されている。

図1.「長期固定制度」のイメージ 出所:制度検討作業部会

 容量市場では毎年のオークションによる約定単価は大きく変動するため、事業者が収入の長期的な予見性を確保できないことが、電源新設投資の障壁の一つとして指摘されている。

 すでに「持続可能な電力システム構築小委員会」や「制度検討作業部会」では、長期固定制度が対象とする電源や制度適用期間等の案が示されており、次第に制度の全体像が明らかとなってきた。

 「制度検討作業部会」の第65回会合では、入札価格の在り方に関する検討が行われた。

長期固定制度の意義とは?

 通常、電源(発電所)はkWhや調整力ΔkW、環境価値(非化石価値)など複数の価値を相対取引もしくは取引所で販売することにより収入を得ている。

 これらの収入はアップサイド/ダウンサイドいずれの方向へも変動し得るが、将来収入のダウンサイドリスクが大きい場合には、電源新設に向けた投資が十分に進まない可能性がある。

 容量市場を導入した場合には、容量確保契約金額の受領により固定費回収の予見性は大きく増すものの、容量市場のNet CONE(電源新設の投資回収にあたり容量市場で正味に回収を必要とする金額)や、その入札上限額(1.5倍)は他市場収益を控除することにより算定されていることから、他市場収益のダウンサイドリスクにさらされていることに変わりはない。

図2.容量市場 他市場収益のダウンサイドリスク 出所:制度検討作業部会

 主な脱炭素電源の固定費(Gross CONE)をkW単価で表したもの(調整係数で補正後)が図3である。

 仮に2021年度容量市場メインオークションの上限価格1.4万円/kW(赤線)で約定したとしても、赤線を超える部分は他市場から得る必要があるため、ダウンサイドリスクの大きさが、これら脱炭素電源の新設投資の障壁となり得る。

 なお英国の容量市場では、新設電源は15年間の制度適用期間を選択可能であるが、新設案件の大半を、相対的に固定費の小さい蓄電池やガス火力が占めている。

図3.電源種別の固定費(Gross CONE) 出所:制度検討作業部会

 長期固定制度は、このようなダウンサイドリスクに対処する措置を講じることを目的としている。なお国民負担を軽減させる観点では、アップサイド収益に対しては逆に一定の還付を求めることとしている。

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