発電所に対する長期収入の確保へ、20年の固定報酬を入札で決める新制度法制度・規制(2/3 ページ)

» 2022年06月08日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

長期固定制度の入札価格はどのように決めるのか?

 長期固定制度において、どのような費用を入札価格に織り込むことが適切であるか、また入札時の他市場収益をどのように設定すべきかなど、入札価格に関する制度詳細が検討されている。

論点1:入札価格に織り込む適切なコスト水準

 長期固定制度の入札によって落札された電源は、最終的には消費者(電力の需要家)がその費用を負担するものであることから、入札価格の監視を前提として、「上限価格の設定」などの一定の規律を設けることが必要とされている。

 本制度措置は初期投資額を含む「固定費」の回収の予見可能性を確保するものであるため、入札価格には、固定費やこれに準ずる費用を織り込むことが想定される。具体的には発電設備等の「建設費」や「系統接続費」のほか、電源廃止後の「廃棄費用」が該当する。

 また電源投資を行う際には、コスト増リスクへの一定の対応が必要となることから、初期投資額(建設費)に対して一定の予備費(例えば10%を上限)を織り込むことも認めることとされた。

 運転維持費に関しては、現行の容量市場と同様に、制度適用期間に発生する「固定資産税」や「人件費」「修繕費」「事業税」等が認められる。このように、長期固定制度では容量市場との共通点も多く存在する。

 資本コスト(事業報酬)に関しても容量市場と同様に、税引前WACC(加重平均コスト)の5%を上限として、入札価格に織り込むこととする。

 また脱炭素電源の有力候補とされる水素・アンモニア発電については、燃料のサプライチェーンが未整備であるため、発電所だけでなくサプライチェーン全体の構築のための投資が必要となることや、燃料調達契約は「take or pay条項」のような固定的な内容となることが想定される。

 こうした燃料関連の費用は固定的な性質となるが、本制度措置において「固定費」と「可変費」のいずれとすべきか、他の審議会の議論も踏まえ、取り扱いを検討する予定としている。

論点2:入札時の他市場収益の設定方法

 現行の容量市場では、入札を行う事業者自身が4年後の1年間の市場価格を予想し、他市場収益を見積もることとされている(これを固定費から控除して入札額を決定)。

 4年後でも精度高く市場価格を予想することは困難であるが、長期固定制度ではさらに遠い将来の長期間にわたる制度適用期間となるため、他市場収益を精度高く見積もることは現実的ではない。

 事業者がダウンサイドリスクを見据え、他市場収益を保守的に(つまり低く)見積もる場合、長期固定制度の応札額が上昇し、ひいては国民負担の増大につながるおそれがある。

 このため、他市場収益は事業者自身が見積もるのではなく、制度側で設定することが適切であると判断された。

制度の複雑さを避けるため、入札時は他市場収益を「ゼロ」として応札を行うことを求めることとする。「Net CONE = Gross CONE − 入札時の他市場収益」であるが、入札時の他市場収益をゼロとすることにより、「Net CONE = Gross CONE」となる。

図4.他市場収益をゼロと設定した応札 出所:制度検討作業部会

 この場合、入札を行う事業者は固定費ベースでの入札を行うこととなるため、固定費が小さく可変費が大きい電源が有利となるという課題が存在する。

 また通常は(プライステイカーとして応札する限り)、少なくともJEPXスポット市場での売却収入が得られることから、この収入を事業者から制度側に返還(還付)させる必要がある。

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