長期固定制度の対象電源から見た「他市場」とは、卸取引市場(JEPX)・需給調整市場・非化石価値取引市場や相対取引であり、実態を反映する観点から、実際の取引から得た収入を基礎とする。この収入から可変費を控除したものが、実際の他市場収益となる。
なお相対契約の場合、発電事業者が意図的にその売電単価を著しく安価とすることも懸念される。長期固定制度では図4のとおり、他市場収益が小さければ、その分、還付額が小さくなり(手元に残る金額は実質的に変わらず)発電事業者は損失を被らないためである。これは国民負担を増加させることとなる。
よってこのような不正行為を防止する観点から、相対契約先の選定には入札実施を義務付けるなどの一定の規律を設けることが必要とされる。
先述した論点2のように入札時は他市場収益をゼロとして、実際の他市場収益を事業者から制度側に還付させる場合、もしその利益の全てを還付させてしまうと、電源の稼働インセンティブが損なわれてしまう。
このため、利益の一定割合(10%)は事業者が留保可能として、90%を制度側に還付させることとする。
さらに、市場価格が高い時間帯に運転を行うこと等のインセンティブを与えるため、還付率は一律に90%とはせず、条件に応じて還付率を変動させることも検討される。
電源のkW価値は電源種別の特徴により異なるが、これらを同じ供給信頼度に換算して評価するため、電源種ごとに異なる「調整係数」が設定されている。調整係数はすでに供給計画や容量市場、電力需給検証報告書などで用いられている。
例えば、2025年度向け容量市場メインオークションの東北エリア約定価格(経過措置控除後)は2,723円/kWであり、調整係数が1(100%)の電源であればこの全額が支払われる。
これに対して、太陽光発電(非FIT)であれば東北エリアの調整係数11.3%が適用されるため、308円/kWの容量収入を得ることとなる。
長期固定制度においても容量市場と同様の考え方とするものの、調整係数は供給計画(当該年度を含む将来10年間)の数値しか存在しないため、制度適用期間20年間の長期固定制度にそのまま適用することは出来ない。
よって入札時点から最も期先の9年後の調整係数を、制度適用期間の全期間において適用し、容量収入を算出することとする。
現行の容量市場では、上限価格はNet CONE×1.5倍が設定されている。長期固定制度においても同様に、上限価格は1.5倍(ただしNet CONE=Gross CONE)とする。
なお容量市場ではシングルプライス方式により約定価格が決定されるが、長期固定制度ではマルチプライス方式を採用することがすでに提案されている。
このため長期固定制度では全電源一律の上限価格を設定するのではなく、電源種ごとに上限価格を設定する。この上限価格を試算した結果が表2である。
表2の「設定方法②」とは、上述論点②の「他市場収益をゼロ」とした試算結果であり、「設定方法①」とは、他市場収益を電源種ごとに一定額に設定する方法のことである。
「設定方法②:他市場収益をゼロ」とした場合、事後的に事業者から制度側に一定額が還付されるため、実質的な国民負担額は「設定方法①」とほぼ等しいものとなる。
なお、過度な国民負担の発生を防止するため、入札には上限価格を設けることとして、10万円/kW/年を目安とすることが提案されている。
電源の高経年化が進み、電力需給逼迫(ひっぱく)が頻発する中では新規電源投資の促進は喫緊の課題であるため、できる限り早期に長期固定制度の第1回オークションを実施するよう電力・ガス基本政策小委員会からも求められている。
しかしながら、このような電源新設に向けた長期収入保証制度は世界的に見ても事例がほとんどなく(kWh収入を支援するFIT/FIP方式を除く)、エネ庁でも手探りで制度検討が進められている段階である。
一旦この制度を運用開始するとその影響は20年間継続するため、まずはスモールスタートとすることが提案されており、徐々に方向修正していくことが必要と考えられる。
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