「3.0」の時代に突入したソーラーシェアリング、変化する社会での役割と今後の展望ソーラーシェアリング入門(56)(3/3 ページ)

» 2022年07月15日 07時00分 公開
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エネルギーと食料の安全保障を支える「3.0」の時代へ

 2022年現在、ロシアによるウクライナ侵攻を契機として地球上のエネルギー資源や食料を巡る問題は新たな次元に突入しました。資源価格は高騰し、食料危機への懸念が広がり、円安も相まった物価上昇圧力によって、日本も長く続いたデフレから強制的に脱却する可能性が高くなっています。

 国民生活に関わる部分では電気料金の高騰が著しく、市場調達が困難になった新電力の撤退や、それに伴う最終保障供給契約への企業・自治体の殺到が起き、家庭用では電気料金が前年比2〜3割の上昇、事業用では「電気料金が2倍」という声も珍しくありません。

 当然、資源価格の上昇は国内の農業も直撃します。肥料価格の上昇、畜産における飼料価格の上昇に加えて、エネルギー価格も上昇するとなればその影響は計り知れません。

 こうした情勢の激変によって、ソーラーシェアリングが果たすべき役割も大きく変わり始めました。再生可能エネルギーの導入がこれまで以上に必要とされる中で、大きなポテンシャルのある農地を活用したいというニーズは単に政策的なテーマの一つにとどまらず、事業者にとっては死活的に重要な問題になっていくでしょう。

 そうしたエネルギー事業側のニーズだけでなく、昨今の情勢は農業側にとっても生産に必要なエネルギーをどのようにして確保していくかという問題を生じさせ、それがソーラーシェアリングへの関心を集めるようになっています。自動車や農業機械・施設などを最大限に電化し、それを農地で得られる再生可能エネルギーで賄うということが、「いつかは再生可能エネルギーで農業を」という理想論から現実的な解決策に変化していると感じます。この変化が、「ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電3.0」の幕開けを告げることになります。

 これまでさまざまな先駆的取り組みによって積み上げられてきたソーラーシェアリングの設備や農業のモデル、そして地域の農業やコミュニティの振興といった実績をもとに、日本のエネルギー安全保障と食料安全保障を支えるものとしてのソーラーシェアリングに進化していく段階です。

農業に必要なエネルギーを確保し食料生産の安定に貢献していくソーラーシェアリング

 世界的にもソーラーシェアリング(Agrivoltaics)に対する関心は大きく高まっており、東アジアでは既に政策目標値を設定している韓国や日本の技術導入を進める台湾、ヨーロッパではドイツ、フランス、イタリア、スペインなどを中心に技術研究が積極的に進められています。他にも、イスラエルは今年から本格的なソーラーシェアリングの普及に乗り出したほか、インドも州単位で導入目標設定が行われています。

 各国の取り組み本格化することで、再生可能エネルギーの導入適地としての農地活用、そして農業生産への再生可能エネルギー導入、更には新たな農法としての活用など、発電設備と農業の両面から研究開発と実証が急ピッチで進んでいくことになるでしょう。この点では日本は事例件数こそ多いものの研究開発や導入支援では遅れを取っており、それを挽回できるかが課題です。

 国内でもソーラーシェアリングに算入するプレーヤーは増加しており、一方でトラブルも増加していることから、NEDOによる営農型太陽光発電の設計・施工ガイドラインが公表されたほか、前回まで取り上げた通り農林水産省は有識者会議を発足させて課題の整理等を進めています。こうしたルール作りが進んでいくことも、「ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電3.0」の足場固めに繋がるでしょう。

まとめ

 今回は、「ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電3.0」とはどういったものかを大まかに整理しました。1.0はまさに黎明期、設備も農業も手探りで各地の取り組みが勃興していった時代。2.0は発展期で、一時転用許可制度の見直しも含め政策的な評価と期待を受けた導入が始まり、認知度を高めつつ実績が積み上がっていくことで普及に向けた足場固めをした時代。そして3.0は、これまで積み上げてきたソーラーシェアリングが持つ価値として実証・提示されたものが、社会情勢の変化に応じて広く実装されていく時代です。

 今般のエネルギー資源や食料への不安が膨らむ中では、ソーラーシェアリングを活用した農業・農村というモデルが、“いつかはたどりつく着く理想”から、“現実に導入していくべきもの”に急速な変化を遂げていくことになるでしょう。

 正直なところ、こうした変化はもう少し先、具体的には2020年代半ば以降になるだろうと予想していました。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が大きく情勢を変化させ、私たちの社会の存続に必要なエネルギーや食料を最大限自給し、安定的に確保していく仕組みを構築する必要に迫られるようになったことで、大きく前倒しになると考えています。

 食料生産に必要なエネルギーを確保し、更に社会全体にも国産のエネルギーを供給してエネルギーと食料の安全保障に貢献していくこと、これがソーラーシェアリングの担う大きな役割となっていくのが、「ソーラーシェアリング/営農型太陽光発電3.0」の時代です。

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