電力系統の抜本増強を目指す「マスタープラン」を刷新へ、投資額6兆円の費用便益評価は?エネルギー管理(1/3 ページ)

再エネの増加などの環境変化に合わせ、広域電力系統の抜本的な増強を目指す新たな「マスタープラン」の検討が進んでいる。2023年1月の素案公表に向け、現在検討されている新たなプランの内容をまとめた。

» 2022年11月28日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 再エネ電源の増加や電化の進展に対応するため、電力系統の抜本的な増強が求められている。このため国や広域機関(電力広域的運営推進機関)は、2021年5月に電力系統の広域的整備に関する「マスタープラン(中間整理)」を作成、公表した。

 地域間連系設備を含む電力系統の増強には長い期間と多大な費用を要することから、マスタープランは2050年を視野に入れ、さまざまな情勢変化にも柔軟に対応できるものとして、複数のシナリオに基づき策定されている。

 その後、「第6次エネルギー基本計画」が策定されたことを踏まえ、現在広域機関では新たなマスタープランの検討が進められている。

 なおマスタープランとは、広域的系統整備に関する長期方針であって、具体的な整備計画ではないことに留意願いたい。マスタープラン策定においても一定の費用便益評価(B/C評価)が行われるものの、具体的な整備計画の作成においては、あらためてB/C評価が行われるため、個々の計画の内容が大きく変更されることもあり得るものである。

図1.広域系統マスタープランの検討イメージ 出所:広域系統マスタープラン検討委員会

マスタープランのシナリオ分析

 そもそも系統増強とは、需要と電源の立地や量のアンバランスを補正するために行われるものであるため、長期的な系統増強方針、すなわちマスタープランを作成するには、2050年などの将来的な電力需給状況を想定する必要がある。

 広域機関ではこれを「シナリオ」と呼んでおり、将来の不確実性に対応するため、3つのシナリオが設けられている。

 系統増強費用、すなわち国民負担を抑制する観点からは、新規電源が需要の近傍に設置されること、もしくは需要が電源豊富な地域に移動することが望ましいため、一定の「需給立地誘導」が実現するケースを「基本シナリオ」としている。

表1.基本シナリオの前提条件 出所:広域系統マスタープラン検討委員会

 シナリオでは、水素製造(水電解)やDAC(大気からのCO2直接回収技術)を新たな需要と位置付け、基本シナリオではその2割が再エネ電源の近傍に設置されると仮定している。

 基本シナリオ以外では、水素製造やDACの8割が再エネ電源近傍に設置される「系統増強縮小シナリオ・需給立地最適化ケース」のほか、立地誘導を考慮しない「系統増強拡大シナリオ・需給立地自然体ケース」が設定される。

 なお電源については、3つのシナリオで共通であり、再エネ比率43%(太陽光260GW、陸上風力41GW、洋上風力45GW、水力50GW・バイオマス7GW・地熱計2GW)という前提が置かれている。

 また既存火力は45年運転で廃止後、水素・アンモニア発電またはCCS付火力へのリプレースを、原子力については既設・建設中の設備が全て60年運転すると仮定している。

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