どうなる排出量取引と炭素賦課金の導入、政府が目指す「成長志向型」カーボンプライシングとは?エネルギー管理(2/4 ページ)

» 2022年12月05日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

「炭素に対する賦課金」の制度設計

 そもそもCPは、その費用負担を意識した需要家の行動変容を期待する制度であることから、幅広い主体を直接的に対象とすることも一案である。(いわゆる下流課税)

 しかしながら実務上の負担抑制の観点からは、化石燃料の輸入事業者等を対象に、新たな炭素賦課金を導入することが示されている。(いわゆる上流課税)

 この場合、下流の需要家に対するCPの適切な転嫁が必要となる。現在、FIT再エネ賦課金の転嫁率は100%と思われ、CPについても制度環境の整備が求められる。

 なお、代替技術が存在せず貿易集約度が高い財については、当面の間、賦課金の対象外とすることも検討される。

 念のため、「炭素に対する賦課金」は、税ではない。

 現在すでに炭素税に類似する仕組みとして、石油石炭税「地球温暖化対策のための課税の特例」、いわゆる「地球温暖化対策のための税(温対税)」が措置されている。これは石油石炭税法に基づく税であり、財務省が所管している。

「排出量取引」の制度設計

 EU-ETSなど世界の主要な排出量取引制度では、対象事業者の参加義務や総排出量(キャップ)の管理があるのに対して、日本の排出量取引制度「GX-ETS」では、参加の判断や削減目標値の設定において、企業の自主性を尊重するものとなっている。

 参加の判断は企業に委ねられるものの、2022年11月現在、GXリーグの参加企業数は577社に上り、日本のCO2排出量の4割以上をカバーする規模となっている。これはEU-ETSのカバー率とほぼ同じ水準である。

図3.GXリーグと「カーボン・クレジット市場」の関係 出所:クリーンエネルギー戦略検討合同会合

 また自主的に削減目標値を設定するとはいえ、低すぎる目標設定によって生じた余剰排出権を他社へ売ることは問題となるため、一定の規律が必要とされる。

 このためGX-ETS参加企業は、2050年カーボンニュートラルと整合的な2030年度目標および2025年度中間目標を登録することが求められる。

 また「超過削減枠」創出の断面では、自主目標排出量は参照されず、日本のNDC(国が決定する貢献)相当量(2013年度比▲46%)と参加企業の実排出量の差分がその対象となる。よって企業が「超過削減枠」を創出するためには、かなりの削減努力が必要となる。

 他方、自主目標排出量を達成できなかった事業者は、他社創出の「超過削減枠」もしくはJ-クレジット等の調達が求められる。

 なおGX-ETSでは、参加企業に一定の猶予期間を与える観点から、第1フェーズ(2023年4月〜)を試行と位置付け、2026年4月の第2フェーズから本格稼働とする。

 諸外国ではすでに、排出枠の有償オークションが実施されているが、GX-ETSでは第3フェーズ以降に発電部門を対象とした有償化導入を検討する。

図4.GX-ETSの段階的発展のイメージ 出所:クリーンエネルギー戦略検討合同会合

 炭素税や賦課金ではあらかじめCP単価が決められているのに対して、排出量取引制度(GX-ETS)では、排出権価格は需給状況で変動するものである。

 このためGX-ETSでは、取引価格の上限・下限(一種のコリドー:回廊)をあらかじめ定め、かつ長期的にこれを上昇させることにより、価格予見可能性を高めると同時に、企業に対して早期の投資を促すことを目指す。次第に負担水準を上昇させる点は、炭素賦課金も共通である。

 なお排出権価格が変動するということは、図2で示したような「CP負担総額を増やさない」原則に反するおそれもある。

 このため、炭素税のような税法に基づく固定的税率ではなく、GX-ETSを主管する経済産業省が両者を一体的に運用し、炭素賦課金を一種の調整弁として柔軟に負担軽減していく案が示されている。

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