脱炭素の切り札「カーボンリサイクル」、米中の先進事例に見る大規模化への展望欧米先進事例から考える日本のカーボンリサイクルの展望(2)(3/4 ページ)

» 2023年02月20日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

規模型主導の代表事例となる中国の大規模プラントとは?

 規模型主導の代表事例は、中国国有の中国石油化工集団(シノペック)が建設した中国最大規模のCCUSプラントである。当プラントは年間100万トン級のCO2回収能力をもつ。2021年末までに、中国で建設されたCCUSプラントは約40カ所。シノペックは前述のCCUSプラントをはじめ1,000万トン級のCCUSプロジェクトを推進している。

 中国で脱炭素化における最も強いプレッシャーを受けているのは、石炭や石油のような生産・製造時にCO2を大量発生する産業であるが、これらの産業からCO2を効率よく回収すれば、社会全体に対する脱炭素への貢献も非常に大きくなる。中国はこのような産業における規模型の脱炭素推進を積極的に取り組んでいる。シノペックをはじめ、中国石油天然気、中国海洋石油、通源石油集団、華能集団などが100万トン級CCUSプロジェクトを建設計画中である。

 シノペックと中国工程院(中国国立の技術分野最高研究機関)が主導する中国最大規模CCUSプロジェクトは、シノペックの石油化学プラントからCO2を分離・回収し、パイプラインで利用先に送り込むというものだ。2030年までに実現を目指す回収コストは1,750〜7,600円/トン、2060年までには390〜2,350円/トンを目標としている。

 今回のシノペックのCCUSプラントの主要目的は原油増産でなく、技術革新(分離技術や輸送技術)と、規模型でコスト優位性を発揮することで、トータルでのCO2排出量削減・カーボンニュートラルという国家目標の実現だ。

回収したCO2の輸送コスト

 次に❷の回収したCO2の輸送コストについてだが、これは、排出源のロケーション、運ぶ方法(パイプ、コンテナ等)、活用先までの距離などにより変化する。今現在最も進んでいる輸送方法は、米国が推進しているパイプライン式だ。パイプライン式はカーボンリサイクルの大規模導入に向けて拡張性がよく、他の方法と比べて中長期投資におけるコストの優位性も米国で検証されつつある。

 米国には今現在約6,500kmのCO2パイプラインが建設されており、その中に既存のガス輸送用のパイプラインをCO2輸送に利活用するものも多く存在している。

 CO2パイプライン(図4)はCO2収集ネットワークと配送ネットワークを構築しやすい点から、優れた機能性を持ちCO2収集・配送のハブとして期待されている。特に主なCO2排出源として化石燃料発電所やガス処理工場のような固定されている場所が多く、収集側のネットワーク構築を行いやすい。加えて、CO2を利用する幅広い顧客への配送にも拡張性がよく設備増設にかかるコストもコントロール可能となる。

図4  CO2パイプライン 出典:一般財団法人 経済広報センター「CNの実現とイノベーションCO2を固定する」をもとにクニエ作成

 典型的な事例として、石油ガスパイプライン輸送を担う米国のトールグラス社が推進する自社の天然ガスパイプラインのCO2輸送パイプラインへの転換がある。長さ約644kmのパイプラインが3つの州を通り、沿線に半導体プラント、工業エリアと商業エリアという大型CO2排出源があり、まさにCO2収集ネットワークを実現する。このパイプラインは年間約1,000万トンのCO2輸送ができ、2024年から本格的にサービス開始予定である。

 前述の中国シノペックが推進する1,000万トン級の一連CCUSプラントは、国家・国有企業が主導の長江沿岸工業エリアにおける大規模CCUSのため、収集ネットワークと配送ネットワーク構築も狙っており、これもパイプラインが主な輸送手段である。2030年までのCO2の輸送コスト目標は約14円/トン・km、2060年は約8円/トン・kmを実現するという。

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