脱炭素の切り札「カーボンリサイクル」、米中の先進事例に見る大規模化への展望欧米先進事例から考える日本のカーボンリサイクルの展望(2)(4/4 ページ)

» 2023年02月20日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]
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大規模なカーボンリサイクルの普及に向けた展望

 脱炭素化へインパクトを与えるためには、カーボンリサイクル技術を活用できる範囲を拡大する必要がある。一方、現時点ではカーボンリサイクル技術はまだ成熟している技術とは言えず、政府による財政支援がないと商業的な収益性実現がまだ難しいため、大規模導入フェーズはこれからだ。実現に向けては、カーボンリサイクル技術の成熟、前述のコスト低減、そしてカーボンリサイクルによるCO2排出量が多い産業への利活用を促進する政府支援やビジネスモデルも重要だ。

 技術主導の米国企業のビジネスモデルの特徴として、国の資金を投入して最先端のCO2回収技術R&Dを実施、実証フェーズから海外でも認められる規模のCO2処理能力をもつ実験を行うことで、各国の基準やルールなどをR&D段階で配慮しクリアするようにしている。また、早めのマーケットイン・市場拡大を目指し、さまざまな企業ニーズに合わせ、カスタマイズできるように導入プロセスの設計、事業スキーム構築を迅速に行う。

 CO2回収や再利用にあたり、導入する企業にとっては、中長期的大型な設備投資や人員配置などが必要となる。自社に合ったプロセス・工程、ビジネススキームや投資回収モデルなど、導入検討にあたり絶対条件となるため、米国企業はR&D・実験段階からグローバル視野を持ち、将来の市場拡大に向けマーケットインデザインやスキーム構築などを積極的に推進している。

 一方、規模型主導の中国は、国家推進で国有石油企業3社をはじめとし、CO2回収・貯蔵のポテンシャルが高い石油・ガス関連産業からCCUSプラントの建設を急速に進めている。石油の増産と大規模導入によるCO2低減へインパクトを与えつつ、前述のとおりCO2回収の全体コストダウンも狙う。中国はグローバル展開でなく、まずポテンシャルが高い国内市場から国家・国有企業主導で大型プロジェクトを実施することにより、業界基準・ルールの構築、商業化に向けた投資レベルへの移行を目指し、その後、政策、補助・支援制度を作り国内における民間企業の市場参入により関連技術とビジネスを促進するモデルをとっている。

 米国と中国の事例から分かるように、技術主導でも規模主導でもカーボンリサイクルを含むCCUS全体でのCO2回収技術の成熟や事業モデルの形成において、一企業が取り込めるインダストリーでなく、国レベルのR&Dケイパビリティの発揮、業界リーダー企業の積極的な参画が必要とされている。そして、カーボンリサイクル・CCUSにおける国の関連政策・補助・支援制度、インセンティブ、ルールメイキングとエコシステムの形成も不可欠である。

 次回は主要国・地域でどのような施策やインセンティブが実施されているか、ルールメイキングとエコシステム形成を含め紹介したい。そして日本のカーボンリサイクルの現状を踏まえ、日本のカーボンリサイクルの未来を考察していきたい。


著者プロフィール


株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 パートナー 胡原 浩(こはら ひろ)

グローバルストラテジー&ビジネスイノベーションリーダー。主に経営・事業戦略、経営企画・改革支援、新規事業戦略、M&A、イノベーション関連等のプロジェクトを担当。 グローバルにおける脱炭素・カーボンニュートラル、エネルギー、EV/モビリティ、蓄電池とハイテク関連の経験豊富。 早稲田大学理工大学院卒業、早稲田大学経営管理研究科(MBA)。



株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 マネージャー 祁 兵(き へい)

M&Aアドバイザリーブティック、日系コンサルティングファーム、ビッグデータ分析会社を経て現職。製造業を中心に、事業戦略・知的財産戦略の策定、事業拡大・新規事業開拓、M&A、脱炭素の戦略策定・実施等を支援。



株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 シニアコンサルタント 赫 晨瓏(かく しんろう)

ハイテクメーカー、日系コンサルティングファームを経て現職。電力エネルギー・モビリティ・環境分野を中心に、企業の事業戦略策定やDX・GX推進、海外進出等を支援。



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