LPガス業界の取引適正化へ制度改革を検討、問題視されている商習慣とは?法制度・規制(2/4 ページ)

» 2023年03月10日 10時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

LPガス小売の適正化の経緯

 かつてLPガスの小売において、価格の不透明性や無償配管などの問題があったため、1997年に液化石油ガス法が改正され、その第14条では、契約締結時に価格の算定方法等を記載した書面を消費者に交付することが義務化された。

 その後、社団法人日本エルピーガス連合会(現、全国LPガス協会)は、取引の適正化・料金透明化を内容とした『LPガス販売指針』を業界自主ルールとして2000年に策定し、会員のLPガス販売事業者に周知・徹底を行ってきた(現在は第4次改訂版)。

 また国は2017年に、「液化石油ガスの小売営業における取引適正化に関する指針」(LPガス小売営業ガイドライン)を制定し、LPガス販売における「望ましい行為」等を示している。

 以下では、液化石油ガス流通WGで問題が指摘されているLPガス業界における2つの商慣行を取り上げる。

賃貸集合住宅における「無償貸与」の問題

 通常、一般消費者(需要家)は、LPガス販売事業者と供給契約を締結する際には、料金等に関する事項に合意した上で、契約締結の判断を行うと考えられる。

 他方、アパート等の賃貸集合住宅に転居する場合、消費者は、入居した後のガス開栓時に、不動産を所有するオーナー(又は管理する不動産管理事業者)があらかじめ選択したLPガス販売事業者との間で供給契約を締結することが通常である。

 小売が全面自由化された電気や都市ガスであれば、個々の入居者(消費者)は、自由に小売電気事業者や小売ガス事業者を変更・選択することが可能である。しかしながらLPガスの場合は、集合住宅全体で1つのLPガス事業者と契約することが一般的であり、個々の入居者が勝手にLPガス事業者を変更することができないため、料金等に納得できない場合であっても、当初のLPガス事業者との契約を継続せざるを得ない。

 これはLPガス事業者の側から見れば、一度、集合住宅オーナー等の合意(独占契約)を得れば、長期的に安定した需要が見込まれるため、ぜひとも獲得したい案件であると言える。

 このため、LPガス事業者は1960年代半ばから営業活動の一つとして、賃貸集合住宅のオーナーにガス給湯機やガスこんろを無償提供(無償貸与)することを始めた。

 集合住宅オーナーの側も、LPガス事業者のこのような事情を分かっているため、次第にオーナー側からも無償貸与を要求するようになり、無償貸与という商慣行は広く蔓延することとなった。今では無償貸与品はガス機器に留まらず、エアコン、インターホン、Wi-Fi機器、防犯カメラといった様々な製品にまで広がっている。より直接的に、金銭(リベート)の要求事例も報告されている。

 全国のLPガス事業者を対象としたアンケート調査によれば、集合住宅オーナーや不動産業者からの要求に応じて設備機器の無償貸与をしたことのあるLPガス事業者は、約62%に上る。

図5.賃貸集合住宅に無償貸与したことがある設備・機器 出所:液化石油ガス流通WG

 無償貸与された機器の費用は、多くの場合、LPガス料金を通じて入居者から回収されるため、当該集合住宅のLPガス料金は高騰することとなる。

 入居した後にLPガス料金を知る賃貸集合住宅の消費者は、料金に不満があっても受け入れるしかなく、事実上、消費者に選択の機会が無い状態となっている。これは、消費者保護の観点から問題があると言える。

 液化石油ガス流通WGでは、LPガス事業者は加害者であると同時に被害者でもある、と表現されている。この問題はLPガス事業者や資源エネルギー庁だけで解決できるものではなく、不動産業界や国土交通省、消費者庁と連携した対処が必要となる。

 まずは液化石油ガス法第14条に基づき、LPガス事業者は、貸与機器の料金を別建てすることにより明確化・透明化することが求められる。図6は、LPガスの基本料金+従量料金+機器料金の「三部料金制」とした料金表の例である。これを不動産業者等の協力を得て、入居前の消費者に提示することが2021年から開始されている。

図6.LPガス料金表の例(抜粋) 出所:液化石油ガス流通WG

 また資源エネルギー庁では、日本エネルギー経済研究所石油情報センターを通じて、LPガス小売価格を調査・公表している。消費者は、入居予定の集合住宅のLPガス価格が当該地域の平均値や最高値と乖離していないかを事前に確認することにより、自己防衛することも可能である。

図7.LPガス小売価格 地域別検索ページ 出所:石油情報センター

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