kWhとΔkWの同時最適化を目指す「同時市場」、立ち上げに向け詳細検討がスタートエネルギー管理(1/4 ページ)

再エネの大量導入など電源構成を受けて、調整力や供給力のより効率的な調達ニーズが高まっている。そこで政府では、kWhとΔkWを同時に約定させる仕組み、いわゆる「同時市場」の導入に向けて約定ロジックなどの詳細検討を開始した。

» 2023年08月09日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 2050年カーボンニュートラルに向けて、変動性再エネ電源の導入量が増加することにより、調整力・供給力の一層の費用効率的な調達が必要となる。また、移行期においては化石燃料の輸入リードタイムを考慮した安定的・効率的な電力需給運用が求められる。

 このため資源エネルギー庁は、電力市場等の抜本的な改革に向けた検討を行い、2022年6月の「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方に関する勉強会」取りまとめにおいて、新たな電力システムのイメージが示された。

図1.中長期的な電力システムのあるべき一つの姿 出典:卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方に関する勉強会

 取りまとめでは、安定供給のための電源起動とメリットオーダーの追求の観点から、週間断面での電源起動の仕組みを設けると共に、kWhとΔkWを同時に約定させる仕組み(同時市場)を設けることが提言された。

 その後、「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」での検討を経て、更に詳細な検討を行うため、2023年8月に「同時市場の在り方等に関する検討会」が設置された。

 なお、当初「同時市場」とは、米国PJM等で導入されているThree-Part Offerと同様に、売入札を行う者は入札時に、「1.起動費」「2.最低出力費用」「3.限界費用カーブ」の3つの情報を登録する手法により、kWhとΔkWを同時に約定させる市場を意味していたが、新たな検討会では、実需給の1週間程度前から実需給までの一連の仕組み全体を指して「同時市場」と呼んでいる。

同時市場の仕組みの具体化と検証

 新たな「同時市場」は、従来の市場とは約定の仕組みが大きく異なるため、約定ロジックの設計や実現性・妥当性、事業者の実務への影響、関係法令等との関連整理などの検証を行うことが、検討会の目的の一つである。

 同時市場の実現に向けては、「入札」「約定(電源起動・出力配分、価格算定)」「精算」の仕組みの検討が必要となるが、このうち、約定ロジックの検討が最も重要と考えられている。

図2.同時市場 約定ロジックの検討 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 よって検討会では、電源起動・出力配分(SCUC・SCED)ロジックや、価格算定の方法による市場価格等への影響を主に検証する予定としている。

 なお、SCUC(Security Constrained Unit Commitment)とは、系統制約を考慮した上で、起動費、最低出力費用、限界費用が最経済となるように起動停止計画を策定することであり、SCED(Security Constrained Economic Dispatch)とは、同じく系統制約を考慮した上で、最経済となるように経済負荷配分を決定することを意味する。

図3.時間軸でみた電源起動・出力配分 出典:同時市場の在り方等に関する検討会

 従来の電源起動・出力配分(SCUC・SCED)ロジックにおいては、需要は固定的(価格弾力性なし)とみなして、総起動費や燃料費等が最小となる電源起動・出力配分を計算していたことに対して、新たなロジックでは、買い入札には価格弾力性があり、市場価格の高低により需要が変動することを前提としている。

 なお、セルフスケジュール電源とは、発電量を自社で確定させたい電源のうち、量のみを入札するものや、市場外で取引し、市場のシステムへ量のみを登録するものを意味しており、今後の検討会で詳細な検討を行う予定である。

図4.買い入札を考慮したSCUC・SCEDロジック 出典:同時市場の在り方等に関する検討会
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