鉄鋼や化学など「CO2多排出産業」のカーボンニュートラルに向けた投資戦略とは?(1/4 ページ)

政府はカーボンニュートラルと経済・産業競争力の強化を両立するGX戦略として、産業分野別のシナリオや投資戦略の策定を進めている。本稿では鉄鋼や化学などのいわゆる「CO2多排出産業」について、現在検討されているGX投資戦略の概要を紹介する。

» 2023年11月17日 10時40分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 2050年カーボンニュートラルと経済成長・産業競争力強化を両立するGX(グリーン・トランスフォーメーション)を実現するため、国は「カーボンプライシング」とGX経済移行債による「投資促進策」を効果的に組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング構想」を掲げている。

図1.企業のGX投資の前倒し実現 出典:GX実現に向けた専門家WG

 GX経済移行債による「投資促進策」は、「GX推進戦略」において、表1の要件が定められており、これを踏まえて施策を実行していくことが求められている。

 また、企業の予見可能性を高め、GX投資を強力に引き出すため、国は今後10年間の具体的な「分野別投資戦略」を年末までにブラッシュアップ・確定し、その中で、2050年カーボンニュートラルを見据えた「先行5カ年アクション・プラン」を策定する予定としている。

  • I.資金調達手法を含め、企業が経営革新にコミットすることを大前提として、技術の革新性や事業の性質等により、民間企業のみでは投資判断が真に困難な事業を対象とすること
  • II.産業競争力強化・経済成長及び排出削減のいずれの実現にも貢献するものであり、その市場規模・削減規模の大きさや、GX達成に不可欠な国内供給の必要性等を総合的に勘案して優先順位を付け、当該優先順位の高いものから支援すること
  • III.企業投資・需要側の行動を変えていく仕組みにつながる規制・制度面の措置と一体的に講ずること
  • IV.国内の人的・物的投資拡大につながるもの ※ を対象とし、海外に閉じる設備投資など国内排出削減に効かない事業や、クレジットなど目標達成にしか効果が無い事業は、支援対象外とすること
表1.GX経済移行債による投資促進策の基本条件

 このため、国は「GX実現に向けた専門家ワーキンググループ」(専門家WG)を設置し、分野別投資戦略等の具体化に向け、技術開発動向を踏まえた排出削減効果や、市場動向を踏まえた経済効果等に照らした検討を進めている。専門家WGでは、分野別投資戦略の中身の具体化や時間軸の明確化のほか、GX経済移行債による国の支援総額の目安、事業者にコミットを求める「先行投資計画」等の考え方を整理している。

 専門家WGが対象とする産業分野は幅広いものであるが、本稿ではいわゆるCO2多排出産業(Hard to Abate)におけるGX投資戦略を取り上げることとする。

 鉄鋼や化学等の素材産業は国際貿易財であり、我が国が産業競争力を有する分野である。製造プロセスを革新しCO2排出を抑えつつ、グリーンかつ高付加価値な製品群を生み出せるかの国際競争を迎えつつある。

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