企業の脱炭素投資を促すためには、グリーントランスフォーメーション(GX)による価値が市場で適切に評価・選択される必要がある。政府ではこうした企業の脱炭素投資によって生まれる製品・サービスを「GX製品」と称し、その適切な価値の評価付けや市場創出に向けた検討を開始した。
世界では、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた脱炭素戦略の成否が企業や国家の競争力を左右する時代に突入しており、GX推進の段階に応じた新たな市場・需要の創出による社会経済構造の転換が重要となってきている。
国は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、GX推進戦略(脱炭素成長型経済構造移行推進戦略)を今年7月に閣議決定したが、企業においても、レピュテーションリスク(※企業の評判へのダメージから生じるリスク)への対応に加え、GXを通じた競争力の獲得・向上の手段とすることが求められている。
企業の脱炭素投資を促すためには、GXによる価値が適切に評価・選択されることが重要となる。このため、経済産業省では、脱炭素投資によって市場に供給された製品・サービスを「GX製品」と名付け、GX製品市場の創出に向けて必要となるGX価値の考え方や評価の在り方等を議論するため、新たな研究会(※)を設置した(※「産業競争力強化及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会」)。
経済産業省ではまず、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた企業による脱炭素投資を「GX投資」と呼び、このような果敢なGX投資によって生み出された脱炭素分の付加価値を「GX価値」と呼んでいる。
GX投資によるGX価値を持った製品・サービスが「GX製品」であり、排出削減の成果を付加価値として明示的に組み込んだ製品・サービスを意味すると考えられる。ここでGX価値には、「1.財を購入した者が享受する便益」と「2.気候変動抑制の効用(社会全体での効用)」の2つの側面が存在すると考えられる。
図2の「供給者コスト」には、通常の製造コストのほかに、脱炭素化に向けた研究開発や設備投資、エネルギー・原料転換、ブランディング・マーケティング等に要する幅広い「脱炭素コスト」を含むものである。
企業等の供給者は通常、「1.購入者便益」と「供給者コスト」がバランスする点で製品供給することが経済合理的である。しかしながら、現時点、排出削減量の大きな製品を製造するためには、脱炭素コストも大きくなるため、これが購入者便益を上回る場合には、その製品は購入されないこととなる。結局はそのような製品は市場に供給されず、社会全体の排出削減にもつながらないこととなる。
図3の場合、排出削減量をより大きくするという社会的便益の観点では、均衡点がより右側に位置する(移動する)ことが望ましいものの、自然体ではこれは実現しないこととなる。
このため、経済合理性をもって排出削減量を増加させていくためには、供給者の生産コストを低減させる方法1、購入者が享受する便益を向上させる方法2、のいずれか、もしくは両方のアプローチを採る必要がある。いずれの場合においても、供給者又は購入者に対する何らかのインセンティブが必要となる。
供給者コストの低減や購入者便益の向上には様々な手法があるが、研究会では主に、需要サイドへのアプローチによる、GX製品調達インセンティブの向上や、これを通じた市場規模・製造規模の拡大を通じた供給コスト低減などについて、検討を進めることとした。
なお国は、成長志向型カーボンプライシング(CP)の導入により、炭素排出に対する賦課金を通じたネガティブインセンティブを設け、脱炭素製品の価格優位を実現する予定としているが、CPが導入されるまでの間においても、費用便益均衡点を右に移動させる施策が必要とされている。
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